転生妻と皇太子2
よろしければ、お読み下さい。
客室に入り、アニエスとタチアナは早速寛いだ。部屋は広く、ベッドも二つある。調度品も、エキゾチックかつ品のあるものが揃っている。
「先程はヒヤヒヤしましたが、とりあえず検討して頂けるようで、良かったですね。奥様」
「そうっすね。後は、薬が効いてくれればいいっすけど……」
その夜、アニエスとタチアナは豪勢な夕食を御馳走になった。レーヴ王国の方が弱い立場とはいえ、第二王子の妻を丁重にもてなす気はあるようだ。
翌朝、アニエス達はドアを叩く音で目を覚ました。
「おい、二人共いるんだろ。出番だぞ。さっさと起きろ」
どうやら、ヴァルトルが直々に起こしに来たらしい。アニエスは、急いで身嗜みを整えると、ドアを開けた。
「近くの農地に魔物が出たそうだ。一緒に討伐に行くぞ」
甲冑を付けたヴァルトルが腕を組んで言った。
「承知致しました」
「奥様、私はどうすれば」
「危ないから、タチアナさんはここに残るっす」
「承知致しました。どうかご無事で」
「ありがとう」
アニエスは、鞄を一つ持って部屋を飛び出した。
農地に向かう途中、ヴァルトルはアニエスをジッと見つめていた。ヴァルトルは乗馬が得意で、魔物の討伐に行く時はいつも馬に乗っている。しかし……アニエスまで馬に跨るとは思っていなかった。黄色い簡素なドレスの裾をたくし上げ、器用に馬に乗る姿に驚いた。しかも、ヴァルトルが走らせている馬とアニエスが借りている馬は、ほぼ同じ速さで走っている。この女、本当に第二王子の妻なのだろうか。
目的地に着くと、アニエス達はひらりと馬から降り、辺りを観察する。すると、遠くの畑から何かがやって来るのが見えた。灰色で毛足の長い犬のような生き物。しかし、その体は人間の四倍はありそうな大きさで、鋭い牙が生えている。魔物だ。アニエスは、ヴァルトルの方を向いて言った。
「私が倒してみて宜しいでしょうか、ヴァルトル皇太子殿下」
「もっと砕けた言い方でいいぞ。……まあいい、やってみろ」
「ありがとうございます」
そう言うと、アニエスは地面にチョークで大きな魔法陣を描き始めた。魔物は、どんどんこちらに近付いてくる。
アニエスは魔法陣を描き終わると、懐から魔法薬の入った瓶を取り出し、魔法陣に垂らした。次に、香水らしき液体が入った別の瓶を取り出すと、それを自分のドレスに振りかけた。すると、魔物はさらにスピードを上げて駆けて来る。ヴァルトルや側にいる兵士達は、固唾を飲んで見守る。
そして魔物が魔法陣の中に足を踏み入れた瞬間、魔法陣から大きな炎が立ち上った。魔物は、悲鳴を上げながら灰になっていった。
「見事なもんだな」
ヴァルトルが拍手をする。
「あの魔物なら、俺達数人がかりでも絶命させるまで十五分はかかるぞ。それを五分でやり遂げるとはな。魔法陣を描く時間を取られるのが難点だが、使いようによってはとんでもなく効率が上がる」
「ありがとうございます」
アニエスは、ぺこりと頭を下げた。
「お前が持っていたのは、魔法陣を発動させる為の液体と魔物を引き付ける為の液体か?」
「はい。魔法陣に使った方の液体は魔術師一族の血が無いと作れませんが、魔物を引き付ける液体は植物から抽出できるので、今度作り方をお教え致します」
魔物を引き付ける液体については、マリユスの本を読んで作り方を知った。
「じゃあ、そろそろ帰るか」
「はい」
アニエスは、ヴァルトルと並んで馬を走らせながら、チラリとその白髪の皇太子に目を向けた。部下に任せず自ら魔物の討伐に出向く皇太子。彼は魔物が出没する実態を目の当たりにしていたからこそ、焦ってレーヴ王国を砲撃したのかもしれない。
城に帰ると、玄関ホールで文官がヴァルトルに話しかけた。
「殿下、ユスティーナ・バレシュ様がお見えになっていますが、お会いになりますか?」
「ユスティーナが?……わかった、執務室に通してくれ。すぐ行く」
「あの歌姫が……」
アニエスは、思わず呟いていた。
「ん?ユスティーナの事を知ってるのか?」
「はい、彼女がレーヴ王国にいらした時にお話しした事がございます」
「そうか。じゃあ一緒に執務室に行くか?世界的歌姫の歌をまた聞けるかもしれないぞ」
「お邪魔でなければ、ぜひお会いしたいです」
アニエスは、微笑んで言った。
よろしければ、ブックマークやいいね等の評価をお願い致します。




