魔王の夢
ダルリ村の廃墟の中で、ドーデン王は部下にキャンプを命じた。
焚き火がたかれ、兵士たちは見張りの兵を残して休息に入った。廃墟となった村についてなにか思いがあるにせよ、かれらはそれを一言も口にせずもくもくと作業を続けていた。考えるのはドーデン王で、兵士は王の命令で戦うだけであると決め込んでいるようだった。
パックたちは焚き火に集まり今後のことを相談するということで集められた。
ギズモ教授は焚き火を眺めながら口を開いた。
「どうもおかしい……わしの考えが正しければ、まるでわれらはなにかに導かれているような気がしてならん」
「どういうことかな? なにに導かれているというのだ」
ドーデン王はギズモ教授の正面にゆったりと座り、問いかけた。教授の額にふかいしわが刻まれている。
「誘いをうけている、と言ったほうが正しいかな。その理由はこのダルリ村を見たときに確信に変わったのじゃ」
みな固唾を呑んで教授の次の言葉を待ち受けている。
教授は指を一本たてた。
「まずドーデンの町が魔物に襲撃を受けたときじゃ。魔物が町を襲うのはいつものことで、それは不思議でもなんでもない。しかしあのときの魔物たちはいつもより凶暴だったようじゃ」
タルカスはうなずいた。
「そう……かもしれねえ。おれは何度も魔物と戦ってきたが、あのときの魔物の戦いぶりはいままで経験したことがなかった。突いても刺してもやつら、まるっきりひるむ様子がなかった。死ぬことがぜんぜん平気のようだったな」
「そうじゃ、わしはもしかしたら魔物の襲撃はなにかのめくらましだったのではないかと思ったのじゃ。すると案の定、ミリィがラフレシアという女によって誘拐された」
「で、でもミリィを攫うのはジャギーがラフレシアに取り引きで……」
ファングが顔を真っ赤にさせ叫んだ。教授は首をふった。
「ジャギーは確かにミリィに執念を燃やしていたようじゃな。たぶん、魔物はそれに目をつけたのじゃろう。つまり、魔物に利用されたというわけじゃよ」
ファングはがくりとうなだれた。
「可哀想な兄さん……それで魔物に魅入られたのね」
「そしてこのダルリ村じゃ。ここはパックが最初に立ち寄った村だ。魔物は徹底的にこの村を破壊した。ハランスの町もそうだ。いまはまだ持ちこたえておるが、あの様子では早晩、魔物の襲撃に耐え切れんじゃろう。まるで魔物たちはパックとかかわりのある人々をかたはしから消してしまうつもりのようじゃ」
しばらく沈黙して教授はふたたび口を開いた。
「それよりわしはあることが気になってしかたがない。わしは魔物の出現は魔王の夢とかかわりがあると考えておる。それが正しければ、つぎのことが導かれる」
いかにも厭そうに教授はつづけた。
「もしかしたら、この世界は魔王の夢そのものではないか、ということじゃ」
焚き火にあたっていながら、一同に慄然とした空気がはしった。タルカスはさっと立ち上がり怒鳴った。
「冗談じゃねえ! この世界が魔王の夢だって? それじゃその魔王が夢から醒めたらどうなるんだ?」
「消える、のさ。魔王が夢から醒めた途端、わしらはすべて消えうせる」
焚き火の明かりを受けた教授は奇妙な笑みを浮かべていた。
それは悪魔の笑みに見えた。
教授の話が終わって、おのおのテントに潜り込んで眠ることになった。
パックはじぶんに与えられたテントにはいり、毛布を被った。ダルリ村の廃墟を使うことも考えられたが、あまりに徹底的に破壊されていて、外で寝るほうがかえって用心がいいということで野宿となったのだ。
目を閉じると瞼の裏にミリィの顔が浮かんでくる。
ドーデンの町にやってきて、ミリィと顔をあわせたのはほんの数時間にすぎない。
しかしそれでも、はっきりと彼女の顔は思い浮かべることが出来る。
ミリィ……。
パックは闇にむかって呼びかけた。
闇の中でミリィは哀しそうな笑顔を見せてパックを見つめている。
ぼくらふたりはいったい、どういう関係なんだろう。
不思議だった。たった数時間顔をあわせただけなのに、パックはミリィを運命の相手と感じている。いや、ヘロヘロにミリィの名前を聞いた瞬間から、パックはミリィに会うことを運命付けられていたように思える。
それは愛とか、好きとかそういった感情とは違う。それよりもっと重要な、言い換えればミリィはパックの命そのもの……そんな気がする。彼女が死ねば、パックも生きてはいられない、そんな確信があるのだ。




