森
森の入り口にパックは立っていた。
背後にはドーデン王ほか、兵士たちが緊張しきった表情で整列をしている。
パックは背後をふり返った。
タルカスが声をかけた。
「案内してくれ。お前の目覚めたという洞窟へ」
うん、とひとつうなずくとパックは歩み始めた。
がさり、と草むらに足がつく。森の中へ、そして洞窟目指してパックは歩き続けた。
背中で、兵士たちがたてる装具のがちゃがちゃという音が聞こえる。森はパックの記憶どおり、ふかくそして木々はひどく密生していた。がっしりと木々は根をはり、生い茂った森の枝葉は日差しをさえぎって薄暗い。
ちりちりとパックは後頭部になにかを感じていた。
なにかがいる……ここにはぼくらを狙うなにかがある……!
わあ! という悲鳴があがった。
さっとふり向くと、兵士の一人が上からぶら下がった魔物に襲われるところだった。
魔物はひょろ長い手足を持つ、猿のような姿をしていた。その長い腕をのばし、兵士の襟首を掴みひっ攫う。猿の尾は枝にまきついていて、兵士は悲鳴をあげながら宙に浮かんだ。
「弓兵!」
ドーデン王が叫ぶと、兵士たちが弓矢をつがえかまえた。ファングもさっと背中の弓を掴んでいる。
「射て!」
ひゅっ、ひゅっと音を立て無数の弓矢が射られたが、それよりはやく魔物は樹葉に姿を隠している。矢はむなしく葉にあたり、ぽとりぽとりと落ちてくる。
ぎゃあーっ、という魂切るような悲鳴が聞こえてくる。
ざあーっ、と鮮血が降ってくる。見上げた兵士たちは頭から血をあび、さっと飛びのく。
ぼと、ぼとりと兵士の手足が落ちてきた。
どすん、と重い音をたて、胴体が降ってくる。胴体からは内臓が飛び出ていた。
それを見た兵士たちの顔色が青ざめる。
ざざざざ……っ!
草むらがざわめき、なにかが跳ねるように兵士たちに襲いかかる。
ぬらぬらとした光沢をもつ手も足もない蠢く生き物。
ヒルだった。
それも一抱えもありそうな、巨大なヒルである。
一匹のヒルが兵士の首にがっきとその口を食い込ませた。
兵士は見る見る青ざめた。同時にヒルが兵士の血液を吸い込み、胴が膨らんでいく。
「おのれ!」
となりにいた仲間の兵士が剣を抜き放った。
それを見て教授が叫ぶ。
「やめろっ!」
しかしその声も届かず、兵士は仲間の首に食い込んだヒルの胴体を両断していた。
ぶしゅーっ!
音を立て、血液がほとばしる。
ヒルは離れたが、兵士からの首からの出血は止まらない。ヒルの胴を両断した兵士は仲間の血を止めようと手を傷口にあてたが、その指の間から血液はどくどくと流れるばかり。
「死ぬなーっ! おい、こんなところで死ぬんじゃない! 魔王を倒すんじゃないのか!」
呼びかけるが、ヒルに食いつかれた兵士はそのまま息を引き取った。
それを見て教授はつぶやいた。
「無理やりヒルを剥がそうとするからいかんのじゃ。食いつかれたところは、血が止まらないようになっている」
その間にもぴょーん、ぴょーんと多数のヒルが飛び跳ねながら隊列に襲いかかった。
パックはさっと手の平をむけた。
ばりばりばりっ!
パックの手の平から紫電が放たれる。
ぎいいいいっ!
紫電にやられたヒルたちは全身を痙攣させ、動きを止めた。
しかし魔物の攻撃は止まらない。
ヒルのほか、枝からはさっきの猿のような魔物が兵士たちを攫う。上から横から隊列は攻撃を受けていた。
ドーデン王、タルカスは背中合わせになって必死に剣をふるっている。しかし魔物の数は多く、じりじりとかれらは配下の兵士たちと離れていく。
「王さま、こうなったらはやく洞窟へ向かおう! いつまでここで戦っても意味がない」
タルカスの言葉に王は歯を食いしばった。
「しかし兵士たちが……」
「来れる者は来るさ! さあ、ぐずぐずしている暇はないぞっ!」
判ったと同意したドーデン王は声を張り上げた。
「ものども! 洞窟へむかうぞ! さあ、パック、案内してくれ!」
王の言葉にパックはひとつうなずくと、先頭を切って走り出した。
その後からタルカス、ドーデン王、教授、ファングが続く。
飛ぶようにパックは走る。
森の中、洞窟に向かって。




