戦い
集まってきた町の住民の中にパックはロング老人の顔を捜したが、見当たらなかった。
聞いてみると、かれもまたあれから町を襲った魔物によって殺されたとのことだった。
その夜、宿屋にパックたちはドーデン王に呼び集められた。
一階の食堂を借り切って、ドーデン王は一番ひろいテーブルに一同を集め、話を切り出した。
「町の連中はおびえておる。余が魔王を倒すと言ったとたん、それでは魔王の怒りをかうことになるのではないかと言い出す始末だ」
ファングは顔を真っ赤にさせ口を開いた。
「そんなのないよ! それじゃあたしら魔王のお目こぼしで生きているみたいじゃないか!」
ギズモ教授は瞼をさげ、ゆっくりと話しだした。
「魔物があらわれてから五十年になる。あまりに長い間魔物のおる世界に生きておって、生まれてから魔物のいない世界など想像もつかなくなっているのだろう。もはや魔物は自然界の一部となっているのだ。しかし魔物がいなくなって、それはそれで問題がおきるだろうな」
「どうしてさ。魔物がいなくなったら、みんな生活が楽になるんじゃないの?」
「しかし兵士は残る」
教授はタルカスを見た。
「戦いに生きる者は、戦いの対象がなくなるといっても戦いをやめるわけにはいかんだろう? 魔物がいなくなれば、やがて人間同士の戦いがはじまるだろうな」
「戦争か……」
ぽつりとタルカスがつぶやいた。
「ま、それはそれでいいよ。おれは戦いしか知らん男だ」
「しかし戦争は人間同士の戦いだ。話し合いでそれを避ける方法があるはずだ……」
ドーデン王の言葉に、タルカスは笑い出した。
「そりゃ甘いぜ、王さま! 人間ってなあ、欲がふかいもんだ。隣りに栄えた町があるとする。そして自分のところに兵士がいりゃ、ひとつ分捕ろうなんて考える奴が出てくらあな」
王は粛然となった。
翌朝、早い時刻から王は兵士を集め、ふたたび旅を開始した。
見送るハランスの町の長老たちは、不安そうな目で王の旅立ちを見送っていた。
ひとりの代表が進み出て、王に言葉をかけた。
「ドーデン王よ。昨日は失礼した。たしかにわれらは魔物の存在を当たり前のものとして考えていたようだ。このようなことはいつかは断ち切らねばならぬ。あなたの戦いが勝利をむかえるよう、われらはこの地から祈っておる」
王はかすかにうなずいた。
「ありがとう。判ってくれて嬉しい。余の戦勝を待っていて欲しい」
代表は一礼して引き下がった。
王は手を挙げ、隊列は動き出した。
先頭を騎馬で進む王に、タルカスがもう一頭の馬に跨り、近づいた。
「王さま、昨日言ったことだが、あれはおれの本意じゃないんだ。やはり戦争なんてやるもんじゃない。魔物は話し合いなんかできないが、人間なら話し合いもできるしな」
ドーデン王は微笑した。
「判っている。おぬしはいい奴だ。戦争は避けることができればそれにこしたことはないが、やはり人間というのは愚かなものだからな」
タルカスとドーデン王はうなずきあった。




