油絵
教授の案内で、パックはテレスとともに地下室へ足を踏み入れた。
かび臭いにおいがあたりに漂っている。いや、実際にかびが繁殖しているのかもしれなかった。人が訪れなくなってだいぶたっているらしく、床にははっきりと目に判るほどほこりが厚くたまっている。ギズモ教授ははて、と額に手を当てた。
「さて……いったいどこにやったかな? 確かこのあたりだと思ったが」
ごそごそと山になった荷物の間をかきわけ、教授はあちらこちらに鼻をつっこんでいく。教授の身動きと共に、もうもうとほこりが舞い上がる。やがて教授の歓声があがった。
「あった、あった! これじゃ、これじゃ!」
にこにこと教授はひとつの包みを持ち上げた。麻布がかけられており、そのうえから紐で縛ってある。紐を解こうとする教授に、テレスが声をかけた。
「教授、ここでひろげると……」
「ほい、そうじゃった! こんなところで店開きしてはほこりがついてしまうな!」
テレスは教授から包みを受け取り、地下室から上へ運んだ。
それでもほこりだらけなので、構内でひろげることはためらわれた。結局、外の庭に持ち出すことになった。
日差しの中、麻布のつつみがひろげられた。
中から現れたのは額にいれられた一枚の油絵であった。
父親と母親らしき夫婦のまんなかに、ひとりの少女が椅子に腰かけている。少女はまだ幼く、年令は十才にもならないくらいだろうか。燃えるような赤い髪の毛。青い瞳。
その顔を見てパックはつぶやいた。
「ミリィ……」
教授は眉をあげた。
「ミリィとは、たしかドーデン王の求婚者になった娘のことか? ふむ、似ておる。わしも城でその娘に会ったが、たしかに生き写しじゃ」
パックはぼう然となっていた。
この屋敷はじぶんとどうかかわりがあるのだろう?
教授の研究室を辞して、パックは町を歩いていた。
かれの脳裏に、教授の言葉がこだましていた。
魔王……。
教授の考えによると、魔王としかいいようのない存在がこの世界にいて、その魔王が夢を見るたび、魔物があらわれるのだという。
それが本当なら、人々がいくら魔物を退治してもきりがないということだ。魔物は倒しても、倒しても魔王の夢のなかからあらわれてくるのだから。
パックはその魔王に会いたいと思った。
もしかしたら、その魔王とじぶんに、なんらかの関係があるように思えたのである。




