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夢見る魔王  作者: 万卜人
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起源問題

 小さな小川の流れが、大河にそそぐように街道もまたほそい踏み分け道から、石を敷き詰めたひろい道に続いていた。ドーデン王が町を訪れる旅人のため、また軍隊を疾駆させるための道路網を整備したのだ。


 石組みの道には馬車の轍のための溝が刻まれている。この溝に車輪が乗ることにより、馬車やチャリオットが通れるようになっている。車輪の幅は、この溝に合わせているため、合わない車輪幅の馬車は通れない。片方の車輪が浮いてしまうため、これは他国の軍隊の侵入をふせぐための防御策なのだ。


 街道を歩く三人の横を、がらがらと車輪を響かせながら何台もの馬車が通りすぎた。人を乗せている乗り合い馬車もあったが、貨物を満載した荷車も多い。


 キャラバンだった。キャラバンの側には、鋭い目つきであたりを警戒している傭兵たちが馬に乗ってしたがっている。また馬車にも多くの傭兵たちが乗っていた。


「魔物もそうだが、キャラバンを襲う山賊がいるからな」

 と、タルカスは説明した。

 街道を行くと、大樹がそびえたち、巨大な葉陰に何組ものキャラバンが休息をとっていた。


「ちょうどいい。どこかのキャラバンに便乗させてもらおう」

 タルカスはそうつぶやくと、休息をとっているキャラバンの隊長らしき人物に話しかけた。でっぷりと太ったその男は、焚き火にあたりながら干し肉をナイフで切り取り、口に運んでいる。口の周りが肉のあぶらで濡れていた。


 便乗したいのだが、というタルカスの言葉に隊長は短く値段を言った。タルカスはうなずき、料金を支払った。隊長は馬車のひとつを指さした。それに乗れ、というつもりらしい。

「旅は順調かね?」

「まあな」

 隊長はうなずき、またナイフで干し肉を切り取った。もくもくと食べ続ける。

「何度か山賊や、魔物の襲撃があったがなんとかかわしたよ。あんたは戦いの経験がかなりありそうだな。もしこれからそういった襲撃があったら、その働きに応じて料金の払い戻しに応じるよ」

 まかせろ、とタルカスは胸をたたいた。


 三人は馬車に乗り込んだ。馬車の床は薄縁がしいていて、先客が数人いた。ドーデンの町に親戚を訪ねに行くと言う老夫婦と、商店の売り子として雇われたはたち前後の姉妹。それに町の大学に学びに来たという若い男子学生の五人だった。


 やがて出発のときが近づき、キャラバンの動きが慌しくなった。

 御者が鞭を鳴らし、傭兵たちが武器を点検している。

 隊長が大声で出発を告げている。


 ごとり、と馬車がひとゆれしてキャラバンは動き出した。ぞろぞろと列を作り、街道を進みだす。前方と後方に傭兵を乗せた馬車が警戒をし、客車と荷車がその間に挟まれる。


「きみたちもドーデンに行くのかい?」

 学生が話しかけてきた。そばかすが目立つ、やせた男であった。

 三人がうなずくと、学生はそうかと笑った。

「ぼくはドーデンの大学へ進学するつもりさ。高名なギズモ教授のもとで学ぶことを許されたからね」

 そう言う学生は得意そうであった。

「ギズモ教授とはどんなことを研究しているの?」

 礼儀上、ファングが尋ねる。よくぞ尋ねてくれたと、学生は話しを続けた。


「教授は起源問題についての権威なんだ。起源問題とは、魔物の起源について考察する学問なんだ。どうして世界に魔物が存在するのか、なぜ魔物がつぎからつぎへと出現するのか? きみらは考えたことはないのかい?」

 ファングとタルカスはパックを見た。パックはうなずいた。

「教授はどうしてだと考えているんですか?」

「魔物の不思議なことは、子孫をつくらないことだ。普通の動物……熊や鹿、馬とか山羊などの家畜もそうだが、みな子孫をつくるよね。ところが魔物というのはそれだけで存在する。きみらは魔物が子供を育てているところを見たことがあるかい?」

 パックはバッグを持ち上げた。

「ヘロヘロ、出てこいよ」


 バッグの蓋を持ち上げ、ヘロヘロが顔を出した。きゃっ、と姉妹が悲鳴を上げ、老夫婦は身を寄せ合い、馬車のかたすみに避けた。学生は目を丸くしている。

「これは……スライムだね。でもずいぶん、小さい」

 学生は手をのばし、ヘロヘロに触れた。ぷるん、とヘロヘロの身体がゆれる。

「ははあ、慣れている。きみがこれを飼っているのか?」

「ぼくヘロヘロっていうんだ! これ、なんて名前じゃないぞ」

 気を悪くしたヘロヘロが叫んだ。学生はぽかんと口を開けた。


「喋れる! 信じられない。魔物は知性もなく、動物とおなじと思っていた……」

「このヘロヘロには親のスライムがいたんだ」

 パックの言葉に学生は頭をふった。

「なんてことだ……初めて知る。魔物に親がいるなんて……ドーデンの町には魔物を飼っている魔物使いは珍しくないが、スライムを連れている魔物使いは見たことない」

 ヘロヘロはパックに話しかけた。

「ね、ぼく魔物なのかい?」


 う、とパックは言葉をつまらせた。考えてみればヘロヘロが魔物なんて、思ったこともない。ヘロヘロはヘロヘロ。友達だ。

 しかしやっぱり魔物なのかもしれない。

 パックはヘロヘロと目を合わせた。

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