スライムの死
話しは数時間前にさかのぼる。
洞窟で、スライムはこれからどうしようか迷っていた。
ヘロヘロがいなくなった。おそらく、パックにくっついて外へ出てしまったのに違いない。ヘロヘロはまだ幼い。ひとりで外に出すには早すぎる。しかし洞窟を守れと命令されているスライムは、ヘロヘロを探しに出かける決心はつかなかった。
いったいだれの命令で洞窟を守っているのか。
あらためてスライムは自分のこの命令について考え込んだ。
生まれてから一度もそのことについて悩んだことはなかった。ミリィとパックが溶液のなかで日々成長するのを見守ることが当たり前だと思っていたからである。
しかしそのふたりはいない。
もう自分の仕事はここにはない。
そうだ、命令は終わったのだ!
それならヘロヘロを探しに出かけても良いのでは?
するすると地面を這い、スライムは洞窟の外へ出た。
外のまぶしさに、少しの間スライムは身を震わせ、明るさに耐えていた。
森をぬけ、街道に出る。
道にパックの足跡があった。まっすぐ村へ向かっていた。となると、ヘロヘロも一緒に村へ向かったに違いない。
街道をたどるスライムに、背後から近づいてくる足音が聞こえた。
ぐるりとふりかえるその瞬間、ぎらりと光る剣が目に入る。
あっ、と思う間もなく、剣の鋭い刃先はスライムの柔らかな身体を突き刺していた。
「魔物め! こんな昼日中から外をうろうろするとはな!」
しゃがれ声が高々と響く。
見ると、旅の剣士らしき男が顔を真っ赤に染め、剣を何度も突き刺していた。
ぐさ!
ぐさ!
突き刺さる剣の切っ先から、スライムの体液がほとばしり、地面に吸い込まれた。
苦痛に、スライムは身もだえした。
「死ね! 魔物め!」
最後に剣士は剣をスライムの中心の核へ深々と突き刺した。
急所であった。
薄れる意識のなか、スライムはヘロヘロに呼びかけた。
パックさまを頼むぞ……!
体液をすっかり出し尽くしたスライムは、ぺしゃんこになって地面にひろがった。
それを見おろす剣士は、息を弾ませにやりと勝利の笑みを浮かべていた。
たくましい身体つきの、黒い髭をはやした男である。
片方の頬にふるい傷跡があり、身につける鎧は古びていた。
相当長い間、旅を続けているようだ。
剣士は剣をぬぐうと、ぱちりと鞘へおさめ歩き出した。
もう、スライムを殺したことなど、すっかり忘れている。




