第93話 虹色の声を持つ少女
楓と七瀬、それにひまりを連れて異世界へ行く。
「俺が頑張って応援するから、心配するな」
小さく震えていたひまりを元気づける俺。
俺って格好いい~!
「いやー。どうしたら楓さんと七瀬さんとピーしてピーできるのか……」
「きゃ、ひまりちゃんのエッチ!」
ひまりの言葉に七瀬が少し嬉しそうに呟く。
いや緊張じゃないんかい!
「ええ。お前ら、何を考えているんだ……」
ドン引きである。
「大丈夫。お兄ちゃんも混ぜて、あ・げ・る♡」
いやひまりよ。何を言っているんだ……。
「品性がある方がアイドルらしいぞ」
「大丈夫。ひまりはいつでもアイドルだから!」
その自信はどこから来るのやら。
「まあ、できるだけのサポートはするからあとはひまりの頑張り次第だな!」
俺は背中を押すようにお立ち台に向かわせる。
「さあ、アイドルひまりの誕生だ」
そう言い、異世界に敷設された壇上にあがるひまり。
歌と踊りはすでに十分なほどに練習してきた――らしい。
俺は一度も見たことがないが、あれだけ自信があるなら、完璧にこなすだろう。
「いいよーひまりちゃーん!」
なぜか楓がハイテンションで応援している。
いつの間にか作った団扇を揺らしている。
楓よ。どうしてそうなった……。
そしてその隣で小さく応援する七瀬。
反対側には紗緒梨が眠たそうにしている。
周りにはモンスターたちが集まり、今か今かと待ちわびている。
「いっくよー! ひまりのファーストライブ! みんな今日は忘れられない夜にするね~♪」
マイクを持ったひまりは嬉しそうに駆け回る。
そしてスピーカーから音源が流れてくると、それに合わせて踊りだす。
ワンフレーズ歌っただけで、周りは引きこまれていく。
目を離せないダンスに、心の奥底が響くかのような歌声。
見て聞いて、心地良くなる姿。
いつの間にか一曲を歌い終え、次の曲に移る。
「なんだよ。すごいじゃんか……」
俺がそう呟くと、となりにいた紗緒梨母が笑みを浮かべる。
「そうね♡ 彼女なら芸能界のトップも狙えるかも♡」
「おいおい。今のうちにサインもらっておいた方がいいんじゃないか?」
「それもそうね♡」
紗緒梨父と母が嬉しそうに言い合う。
なんだかんだ言って仲の良い家族だよな。
俺も、そんな家族が築けるだろうか……。
いや、何を考えているんだ。俺は。
さらに歌い続けるひまりはキラキラ輝いているように見えた。
いや、汗が飛んでいるだけか?
まあ、どっちでもいい。
〝イケメン労働法二十八条〟には『夢を追うものを助けよ』とある。
俺がイケメンでなければ、ひまりはこの台に立つこともできなかったのだろう。
でも俺はイケメンだった。
だったら最後まで手伝ってやるぜ。
スピーカーから流れるひまりの歌声に少し感動しつつ、ティッシュで涙を拭う。
いかん。
イケメンがしてはいけない顔をしていた。
と観客席を見るとテンションの上がった七瀬が衣服を脱ぎ散らかし、全裸になっていた。
俺はすぐさまその場へと向かって走り出す。
二曲目を歌い終えて、休息に入るひまり。
遅かったか。
しかし、周りが気がついた様子がない。
七瀬の隣にくると、俺はバスタオルでその破廉恥な身体を隠す。
「何やっているんだよ。お前」
「げへへ。いつものことじゃない!」
「そうだけど。いやだからこそ、ダメだろ。ひまりのファーストライブだぞ。節度をもて」
「はいはーい!」
くそ。こいつ分かってねーな!
「はいは一回だ」
「げへへへ。なんだかお父さんみたい」
「ばっ。うるさいわい! イケメンな俺に怒られるだけマシだと思え」
「ま、イケメンではないけどね♪」
煽るように笑みを浮かべる七瀬。
くー。ムカつく。
「まあ、待ちなさいな。赤羽根君」
「なんだ。紗緒梨」
「ふふ。あなたを慰めて、あ・げ・る♡」
「お前、あいかわず頭ん中ピンク色だな!」
そーっとこちらを見やる楓。
だが目線が合うとぷいっとそっぽを向く楓。
しかし、なぜモンスターたちまで盛り上がっているのだろう。
不思議に思っていると、紗緒梨が耳元に口を近づける。
「あのひまりさん、モンスターを癒やす力があるみたいね」
「なっ」
そんな能力を持っているのか。
なんて恐ろしい子。
「ま、まあ、分かっていたけど?」
「その反応、初心で可愛いわ♡」
「う、うっさい!」
俺はその場から離れようとする。
くいっと引かれる袖。
「なんだよ。楓」
「あ。な、なんでもないかな!」
「そ、そっか……」
なんだかおかしな空気になってしまったな。
休憩が終わり、三曲目の音が流れ出す。
ひまりが現れ、リズムに合わせて歌い声を上げる。
バラード調のしっとりした歌声。先ほどまでポップで明るい曲を歌っていた声とは違って聞こえる。
なんともまあ、綺麗な歌声だ。
まるで虹色の声を持つ少女だ。
ひまりにこんな才能があるだなんて知らなかった。
子どもの頃からおままごととか一緒に遊んだな。いや、これは黒歴史か。
俺がおままごとなど。
思い出に浸っていると、最後の曲が流れ出す。
歌える曲は少ないと聴いていたが、四曲も歌えれば地下アイドル。それも初めてのライブとしては《《成功》》なのでは?
いや、作者は何を考えて成功に傍点をうったのか……。
気にしてはいけない。無理に言葉の裏を探ろうとするから、誤解が生まれるのだ。
これも一つの冗談だ。きっと。
ライブが終わると、グッズ販売に回るひまり。
自身の手で渡したいそうだ。
「ひまりのライブに来てくれて、ありがとー♡」
嬉しそうにグッズを渡すところを見て満足する俺。
七瀬や紗緒梨、楓もグッズを購入している。
俺は三人を集めて、言う。
「お前らは買わなくてもプレゼントしたのに」
「ふふ。買わせて頂戴な。私も手伝いたいわ」
「そうだね。わたしも応援したくなっちゃった!」
「まあ、ボクも賛成かな。こっちも頑張りたくなる曲だったよ」
ほわわっと♡マークを浮かべている楓。
楓だけひまりの等身大パネルまで買っているではないか。
そんなに熱量が高いとは思わなかった。
まあ、ひまりの能力にもよるところは大きいのかもしれない。
「そうだ。わたしのお店で歌えるけど、バイトしてみない? アイドルのきっかけにもなるよ!」
七瀬がコスプレ喫茶でのバイトを提案してくる。
なるほど。確かにあそこには歌えるお立ち台がある。そしてそこから地下アイドルを目指すのも可能だろう。
バイトだから、お金ももらえるし。
良い話ではある。
「それはひまりに聞いてみてからだな。俺と一緒に来てくれ」
グッズを売り終えて、感謝をノベルひまり。
いやライトノベルのタイトルがひまりみたいじゃないか。
正しくは「述べる」ね。
そんなひまりがぱあっと大輪のヒマワリのような笑みを浮かべてトテトテと駆け寄ってくる。
「やったよ! ひまり、大《《成功》》!!」
「あー。そうだな」
一気に言葉を失う俺。
まだ作者は引きずっているらしい。
「まあ、少し話がある。聞いてくれるか? ひまり」
「いいよ。どんな話?」
「わたしの喫茶店で地下アイドルを目指してみない?」
七瀬がそう言って手を伸ばす。
「ほけー。どういうこと?」
ひまりは困ったように俺を見やる。
「あー。コスプレ喫茶でバイトをしながらアイドルを目指すということだよ。最初のうちはウエイターで、時々歌うんだ。時間があればライブハウスでも歌える」
「すっごくいい!」
ひまりは嬉しそうに七瀬の手をとり、握手する。
「ぜひ、働かせてください!」
ペコリと頭を下げるひまり。
なんと、礼儀があるとは知らなかった。
自由奔放を絵に描いたようなひまりだというのに。
意外とラブコメのヒロインみたいな子だな。




