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第94話 歌(イケメン)

「うはー!」

 嬉しそうに笑みを浮かべているひまり。

 明るい色の髪をサラリと流しお立ち台に駆け寄る。

 そう。ここはコスプレ喫茶『セブン・フリル』。

 七瀬春夏の実家である。

「おー。あかばねくん。よく来たね!」

 七瀬忠史(ただふみ)。春夏のお父さんでなぜか俺を気に入っている変わり者。

 まあ俺がイケメンすぎるのが問題か。

 運命には逆らえないのだろう。

「ひまり、ここで働く! そしてトップアイドルになるの!」

「まあ、頑張れよ」

 夢を追いかけるのは一つの原動力になる。それを否定してしまっては、イケメンの名がすたるというもの。

「ふふ。いい子ね。私のものにしたいわ……!」

 欲求を抑えきれない紗緒梨が手をスライム化させている。

「いや、その汚いものをしまえよ」

 俺は紗緒梨の頭にチョップをいれる。

「ボクもできる限り応援するよ。ひまりん!」

「ありがとうございます! ひまりとってもうれぴい!」

「わたしも応援しているからね! ひまりちゃん!」

 七瀬がそう言うとひまりをぎゅっと抱きしめる。

 全裸で。

「いや、いつの間に服脱いだんだよ!」

 俺は慌ててタオルで見せちゃいけないところを隠す。

 これでカメラ対策も万全だ。

「すっかり慣れてきたね! 赤羽根くん!」

「慣れるか! お前は少し自重しろ!」

「そんな赤羽根君も、実は裏で鏡を見ているじゃない。それと同じことよ」

 意外にも紗緒梨が俺をたしなめてくる。

「いやいや。鏡を見るのに迷惑はかけないが、七瀬の露出狂は迷惑をかけているだろ!」

「ちっちゃい男ね」

「何を〜!」

 イケメンであるこの俺が小さい男だと!

「ボクも紗緒梨っちに賛成だね。赤羽根っち。最近、冷たいよ? せっかくのイケメンが台無しだよ」

「そ、そうか……。いや、気をつける。悪かった」

 俺の反応を見て、ニターっと笑みを浮かべる楓。

「イケメンの赤羽根っちなら、この間のことも謝れるよね?」

「あ、ああ。俺が悪かった。言い過ぎた」

「言質取ったからね!」

「お、おう……」

「やった!」

 笑顔で抱きついてくる楓。

「お、おい。なんだよ!」

 ロリコン、ショタコンな楓が俺に抱きついてくる、だと……!

「いいじゃない。こうしたかったんだし」

 楓は引き下がりそうにない。

「むむむ! ひまりがイチャイチャしたいのに、なぜかお兄ちゃんがイチャイチャしている!」

 不服そうに唇を尖らせるひまり。

「いや、どこに嫉妬しているんだよ」

 レズビアンであるひまりは七瀬を盗られたみたいに思っているのかもしれない。

「お兄ちゃんもお兄ちゃんだよ。察してよ」

「女子の察しては、高難易度の言葉選びだろ? 苦手なんだよ」

 そうだ。

 言葉通りに受け取ってはいけない。だが、それでも俺は鈍感な方ではないと自覚している。

 それはみんなの反応を見ていれば分かる……と思う。

「じゃあ、ここでバイトで決まりね」

 話をさっさと進めてしまう七瀬。

「一応聞くが、ひまりの安全は保証されているんだよな?」

 過保護に思われるかもしれないが、俺は保護者としての責任を果たす。

「大丈夫、大丈夫。手出しようとした者には鉄槌を与えるから」

 七瀬は柔和な笑みを浮かべて言う。

 いや、言っている内容はかなり過激なんだが……。

「ふふ。大丈夫よ。ひまりさんの初めては私がいただくから」

「お姉様」

 紗緒梨とひまりが怪しい雰囲気を醸し出す。

「いやいや、なんでそうなる……」

「そんなのずるい!」

 楓がフォローしてくれる!!

「ボクもまぜてよ!」

 いや、お前もまざるんかい!

 くっ。まともなやつがいないぜ。

「じゃあ、みんなでピーをしましょう?」

 R18指定におそれをなした作者はピー音を被せることにした。

 おい。俺の独白を奪うな。

 いくら神《作者》だからといってやっていいことと悪いことがある。

 そんな俺、赤羽根が作者を問い詰めていると、ひまりがさっそく衣装を着替えて、お立ち台にあがる。

 どうやら一曲歌いたくなったらしい。

 衣装はきらびやかで派手だ。ミニスカートが半分だけロングで、おしゃれな感じだ。

 腹に来る重低音ののち、甘く切ない歌詞が流れてくる。

 ワンフレーズを歌い上げる頃にはみんなの視線を釘付けにしていた。

 なんとも素晴らしい歌声だ。

 天使でもあり、悪魔でもある歌声に感動しないものなどいない。

「ぐー。すやすや」

 いや、七瀬よ。眠るなよ……。ひどいじゃないか。

 呼んだのはお前だぞ。

 鼻提灯はなちょうちんを浮かべている七瀬は、ハッと目を冷ますと、拍手する。

 いやいやごまかせないからな!

 周りも拍手喝采。

 たまたまいたお客さんも嬉しそうにしている。

 おお。これはイケるんじゃないか?

 もしかして本当にトップアイドルになれるかも!

 今まで身内贔屓だと思っていたが、イケる!

 テンションバク上がりの俺はひまりとハイタッチをかわす。

「そうだ! お兄ちゃんも歌ってよ!」

「へ? 俺?」

「ふふ。確かにいい案だわ」

「ボクも聞いてみたい!」

「いいわよ。好きに歌って。もともと、そのためにあるんだから」

 七瀬の許しも得たところで。

 イケメンである俺がいよいよスーパースターになる日がくるとは。

 マイクを受け取り、曲を選択。

 そしてお立ち台にあがり、リズムよく踊りだす。

 ついに始まったイントロ。

 それに合わせて歌い出す俺。

 熱唱した。

 一曲まるまる熱唱した。

 だが、拍手が起きない。

 不思議に思い周りを見渡す。

 七瀬が重ね着をした状態で失神しており、楓が壊れたラジオのように呪詛を唱えている。紗緒梨はぐねぐねとスライム化している。

 他にも、壁の真新しい傷跡や床を這う傷。

「何が起きたんだ?」

 俺はその疑問を理解する前にひまりが駆け寄ってくる。

「お兄ちゃん……」

「ひまりは無事なんだな?」

 ひまりはフラフラしながら、歩み、そしてくずおれる。

 それを支えるが、目がぐるぐると回っているように見えた。

「うた、へたなのね……」

 紗緒梨スライムがようやく人の形をなしてきた。

「自己修復プログラム起動。FG4からWE3まで再起動。ピー」

 楓が何やら電子音を鳴らしていた。

 そして重ね着をしている七瀬は、ようやく上着の一枚を脱ぐ。そうしてあらわになった狐の耳と、尻尾。

「うへー。ひどい目に遭ったよ……」

 まるで事故か、天災でも遭ったかのように呟く七瀬。

「全システム復旧。オールグリーン」

 楓はもうちょいかかりそうだ。

「もう、お兄ちゃんは歌わないで」

 ひまりは口を酸っぱくして言う。

 気持ちよく歌えたのに、なぜか否定されてしまう。

 俺ってイケメンなのに?

 なぜこんな扱いを受ける。

 不服そうにジト目を向けるが、ひまりはすました顔でさらに続ける。

「ひまりの方が歌がうまいの! 分かる?」

 先程まで察してほしいと言っていたひまり。

 そうか。ひまりは歌を聞くのではなく、歌いたいのか。

 なるほど。俺の圧倒的な歌唱力に自信をなくしたんだな!

「分かった。俺の才能がそこまでさせるなら歌わない」

「才能って……。まあ、《《才能》》か……」

 ひまりの口の端がヒクヒクとつり上がっているようにも思えるけど。

 なんでだ?

 まあいいや。俺の才能はひまりを傷つける。なら歌うのは封印しよう。

 俺のスーパースターへの道のりは遠そうだ。

 口直しに、ということでひまりが二曲目を歌い出す。

 なぜ『口直し』なのかを問うたが、誰も相手にすらしてくれない。

 なんだか、みんなの目が冷たくなった気がする。

 そして不調をきたした面々は、ひまりの歌を聞き終えて各々が自宅に帰り始める。

「さ。俺たちも帰るぞ。ひまり」

「分かった。すぐイク!」

 おい。なんだかイントネーションがおかしかったが?

 着替えるため、奥の部屋にいくひまり。

「さすが七瀬お姉ちゃん!」

 更衣室から艶っぽい声を上げるひまり。

「本当に何しているんだよ……」

 俺は項垂れるようにして、ひまりが戻ってくるのを待った。

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