第87話 王様ゲーム
異世界に来て、はや半月。
なぜか、こちらの世界での英雄になっていた。それは奇しくも魔王ブラットを退けた軍勢のリーダーということになっている。
確かにあのメンツを集めたのも、指示を出していたのも、俺だが何一つ役に立っていないような気もする。とはいえ、俺の才能あっての勝利だ。
思わず口もとが緩むがしょうがないことと思う。
肩口まで切りそろえた金髪美少女が目の前にいる。中身はスライムなので、見た目だけがちょこちょこ変化していく。可愛いが変なクセがあり、下ネタが大好きなのだ。その上、男性のアレが大好物らしい。攻めてくる、いわゆるドSなのだが、いざというときは、ヘタレになるのがどこかのキャラに似ている。
「あら。難しいことを考えているわね。赤羽君。勃起?」
「いや、考えていないからな。俺は単純に目の前にいる奴が口にするのが最悪だと思ってな」
「うふふ。まあいいわ。今夜は許してあげる」
今日、ブラットを退けた俺たちはパーティーを開いていた。目の前には大量の豪華な飯が用意してある。
ちなみに買い物は俺たちの世界から買ってきたものである。スライムのいる異世界にはあまり食糧や衣類などが充実しているのだ。だから転移門を持っているスライムの軍勢は優遇されている。その恩恵を受けたくて武力を持ってブラットが、やってきたが、主に楓の活躍によって退けることができた。
お陰でこちらの世界の平和は保たれた。……というより、転移してきてもレーザー兵器で応戦できた気がするが。とにもかくにも、転移門を守ることができたので、スライムたち――紗緒梨たちは大盛り上がりだ。
ビーフシチューに、ポテトサラダ、フライドチキン、ケーキまである。
隣で食べている楓が不思議そうにケーキをつついている。
漆黒のツインテールをしており、アホ毛が頭からちょっと覗いてみえる。瞳の奥には走査線の光が見え隠れしており、人間とは思えない動きを時折見せている。その実態は超高性能アンドロイドであり、全身に武器を備えている。その力を今回の魔族・ブラット討伐に対して遺憾なく発揮された。
特に背中にある二つのレーザー兵器は強力で辺り一面、東京ドーム二個分を焼き野原にするほどの力を持っている。
「赤羽っち。何をじろじろと見ているのさ。ボクだって恥じらいはあるんだからね!」
「ああ。お前の普通さに感謝しているところだ」
楓は他の女子に比べて常識人だと思えるが、ロリ・ショタといった小さな人間に対して性癖をもっているのが唯一の欠点でもある。好物はわかめスープで、今回の晩餐会にもちゃんと用意されているが、楓以外は手をつけていない。
「はっ! もしかして、食事で迷っているのかい? わかめスープがオススメなのさ」
「あ、ああ。ありがとう」
わかめスープが好きと知ったのは今回のブラット討伐を終えてのことだ。
そっとわかめスープへ手を伸ばす。
ずずっと一口。
「う、うまい……。なぜだ。このコクのある、深みのあるうま味成分はわかめのそれだけではない。きっと昆布だしと鰹節から作られた出汁が優れている」
「それだけの考察ができるなんてすごいのさ! さあ一緒にわかめスープを楽しもう!」
……。
意外とまともではないのかもしれないな。
なぜ、わかめなのかは分からないが、狂気を感じる。
「わかめ! わかめ! わかめ!」
よく分からないところで盛り上がっている楓に、視線をそらす。
視界に入ったのは七瀬だ。
自称妖魔で、ダークブラウンの腰まであるロングヘアーに、ダークパールのような瞳に吸い込まれるような魅力を感じる。だが、その美貌を台無しにするほどの性癖がある。それは露出狂だ。年がら年中、裸に近しい格好をしていないと、気が済まないらしい。ところ構わず、脱ぎ出すクセがある。
今はまだ脱いでいないことから、彼女はまだ気分が高揚していない証拠だ。
「どうしたの? 赤羽くん?」
「いや、なんでもない。今日は楽しいパーティーになるといいな」
「え~。なんだか余興みたいなのがあるといいんだけど……」
つまらなさそうにそう呟く七瀬。
「それなら、王様ゲームでもしましょうか?」
隣からアイディアを伝えてくる紗緒梨。
「王様ゲーム! そういったのがいいね!」
「で。どうするんだ。それ」
紗緒梨がわり箸を持って、一本だけに赤い印をつける。残りは数字を刻む。
「これをこう持って……」
赤い印が隠れるように持ち直すと、じゃらじゃらとかき混ぜる。そしてトントンと机をつついて整える。
「さあ。用意できたわよ」
わり箸の数は四つ。
この場には紗緒梨と俺を含め、計六人いる。
「ええと。淳也さんとユユさんの分は?」
「あ~。気にするものではない。わしらはわしらで楽しんでいるからな」
「うふふ♡ そうよ♡ 若者には若者らしい楽しみ方がわるわ♡」
「そ、そうですか……」
ばつの悪い顔を浮かべてしまう俺。
というのも、このメンツでは行いたくはなかったからだ。みんな、俺に惚れているのだから、それに見合う指示を出してくるだろう。
そして、そのせいで誰かが悲しむのだ。
そんなのはごめんだ。
俺以外の奴が勝つとろくなことがない。
となれば、俺が常に王様になるしかない。
先ほどみた赤い印のついたわり箸。その文様を思い出しながら、手にする。
「じゃあ、俺はこれで」
「わたしはこれ!」
「ボクはこれさ!」
「うふふ。じゃあ、私は残りのこれね」
よし。これで俺が王様だ。
わり箸を引き抜くと、そこには赤い印のついた――王様の印だ。
「よっしゃぁああああああぁあぁっ!!」
「ちょっと喜びすぎなのさ」
楓が呆れるが、こればかりは譲れない。
でないと、俺の貞操が危ないのだ。
この孤高のイケメンは、誰のものにもならない。なってはいけないのだ。
何せ、みんなのアイドルだからな。
孤高のアイドル、ここに惨状!
「てな訳で、一番と二番がキスしろ!」
これで俺以外の奴が引っかかる。そしてもう嫌だ! となるのだ。
俺の作戦は完璧だ。これで二人は脱落だ。
「いきなりきついのを出すね。赤羽っち」
「私も驚いたわ。そんな指示を出すなんて」
「もっとワイルドなものを期待していたよ。赤羽くん」
「ワイルドじゃなく、マイルドな」
「え?」
「え……」
何やら誤解しているらしい俺と七瀬。しかしながら誰と誰がキスするのか。
「じゃあ、一番」
「はい」
楓が怯えた顔で手をあげる。
「二番はわたしね」
上着を一枚脱いだ七瀬が手をあげる。
楓と七瀬がゆっくりと近づく。
「初めてだから優しくしてね」
「わたしも初めてだから、どうしていいのかな?」
ゆっくりと顔を近づける二人にドキドキしてしまう俺。
なんだ。なんだかみてはいけないものをみているような雰囲気だ。
ふたりの唇が触れあい、停止する。
「あら。本当にキスしてしまいましたね。どうするんです?」
と問いかけてくる紗緒梨。
「ああ。もういいぞ」
楓と七瀬が離れる。
「ピー。エラーコード2890。パスワード認証。設定完了。再起動します」
あれ。楓の様子がおかしいぞ。どうしたんだ?
「げへへへ。力がみなぎってくるわ!」
「へ……?」
なんだか様子がおかしいのは楓だけじゃなかった。七瀬もまたおかしな様子を見せる。
「げへへへ! これで妖魔術の力がみなぎってきたわ!」
なんだ? 妖魔術って。
もしかしてこいつ、本当に妖魔なのか?
「あらあら。大変なことになってしまいましたわね。赤羽君のせいですわよ」
「へ? そんなこと言われても……」
二人の様子がおかしいのは、俺一人に責任が飛んでくる。それはそうだが、どうしていいのか分からない。
さて。どうしたものか……。




