5
色んなものを気づかれぬよう飲み込みながら、
一通り支度を終わらせ、メアに伴われ食堂に向かう。朝餉である。その先でイヴォンヌは不意打ちを食らう。
「イヴォンヌ、おはよう」
ただ、息を飲むことしか出来ない。娘の胸中を知らぬまま、今日は少し遅かったのねと、先に席に着いていた母がイヴォンヌを見て微笑んでいる。
机の短辺、主座に座る父や、母の向かい、窓側にいる兄や弟も物珍しげにイヴォンヌへ視線を向けてきた。
穏やかすぎる空気。酷く違和感を覚えさせられる。
(わたくしが、おかしいのかしら)
食堂に向かう道すがら、イヴォンヌはメアとのやり取りについて考えていた。
自分が生きているらしいこと、メアが過去の日付を今と言っていること。
自分が死なずに済んだだけなら、まだ予想がついた。首が落とされる直前に救出された可能性である。イヴォンヌの首には傷一つなかったし、実際のところ、死んだ自覚などなかったからだ。もちろん、これだけだと説明がつくのは死んでいない理由だけになるが。
なぜ、首が見えるように切った髪が伸びているのか。自分の顔つきに違和感があるのか。メアの言葉が腑に落ちないことの理由は。
そして、自分の家族を見てまた増える。
どう考えても彼らの接し方は脱獄者に向けた温度感ではない。彼らがイヴォンヌを救ったのではないのか。イヴォンヌが罪人になった事さえ知らぬ様子ではないか。
いちばん現実的なはずの理由が、どうにも現実的に思えない。
(メアの言っていることが、本当に事実だとでも?)
確かにこの世には魔法が存在する。
しかし、摂理として、時間は戻らないはずだ。
ありえない。――はずなのである。
母の言葉に返事をするより先。
混乱深まるイヴォンヌの目に入ったのは、向かいの席に座る弟の、ローランだった。
(そんなはずがない)
目を瞠る。
ローランが、明らかに幼かった。
記憶違いでは説明がつかない。
それに、クラバットをしていないのだ。
イヴァルテの貴族男士は、十二を越えればクラバットを締めるはずなのに。
(本当に、二年前だというの?)
例えば……何らかの魔法で?
時間の巻き戻りが発生したと仮定した場合、全て説明がつく。
しかし、そんなことが起こりうるだろうか。
そんな魔法があったら、何も信じられなくなってしまうのではないだろうか。
考えれば考えるほど、どんどん分からなくなっていく。
分からない。
分からない。
分からない。
どうしても、納得したくない。
イヴォンヌの頭の中で、ブツっと音がした気がした。




