4
祖母が亡くなったのは、もう二年も前のことだ。今さら取り乱すようなことではない。
イヴォンヌの表情を見て、メアも何かを察したようだった。だが、「大丈夫ですよ」などと、見当違いの言葉を向けてくる。
「メアはお嬢様を置いてヴァレリアへ旅立ったりはいたしません。大奥様は、先に逝ってしまわれましたが、大旦那様がお迎えの準備ができたから、お迎えに来て――それで旅立たれただけなのです」
(ど、どういうことなのかしら)
イヴォンヌは大いに混乱した。メアの様子がおかしく思えてならない。彼女の双眸には徹頭徹尾、揺るぎない献身の色だけが浮かんでいた。そこに不信など一変たりとも見えない。だからこそ、違和感が増幅する。
どういうことなのか、まったく分からない。
分からないけれど。
「心配かけたわね、メア」
イヴォンヌは努めて楚々とした笑みを浮かべた。
そして、どうか言葉通りに受け取って欲しい、と前置きし、
「今日の日にちは何だったかしら」
そう問いながら、イヴォンヌはわずかに呼吸を整え、メアの反応を待った。
問われたメアは少し不思議そうにしながらも、はっきりと答える。
「グレヴァリオ改歴1754年10月16日でございます」
「……そう」
(グレヴァリオ改歴1754年?!)
イヴォンヌは平静に努めた。混乱を極めた有様を見せるわけにはいかなかった。イヴォンヌが処刑されたのは彼女が16歳を迎えた、グレヴァリオ改暦1756年のことである。1754年10月16日とは、遡ること二年前、イヴォンヌの祖母が逝去してからひと月半ほど経過した頃である。そして、
「昨日、お祖母様のお墓にお参りへ行ったから――ねぇ、ここはヴァレリアではないのよね?」
イヴォンヌは、今度は試す心地で言葉を紡いだ。グレヴァリオ改歴1754年10月15日には確かに祖母の法事があった。しかし、イヴォンヌの知っている昨日のことではないのだ。これに頷くなら、イヴォンヌにとってそれはメイドが主を騙すことになる。が――
「ええ、お嬢様にも、もちろん私にも、まだヴァレリアへのお迎えは来ておりませんとも」
メアの表情にはただ、気遣う様子しか見えなかった。祖母の死に引きずられ、夢を見たのだと。
小さな主人を憐れみ、慰めようとする慈愛だけが、そこにはあった。




