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死後の世界もお湯が温かくて気持ちいいわ。――などと、思考を放棄したくなる頭と心を奮い立たせて、イヴォンヌは何度も確認しようとしていた。
(メア、あなたまさか私を追って死んだなんて言わないわよね……?)
死したはずの自分が在る以上、ここが現世でないことは明らかだった。思い描いていたものと少し違う気もするが、それを疑う理由もない。
だから、イヴォンヌにとってメイドがここに居るということは、彼女も死んだということにほかならなかった。
それでも、心が静かに軋むのを覚えた。メアはイヴォンヌより七つは年上の女性だが、それでも死ぬには早すぎる。
なぜ、死んでしまったというのか。
イヴォンヌは、ふと「自分の死が、彼女を追い詰めたのではないか」と、不安になった。自分でも慎ましくない考えだと分かっていたけれど。
もしそれが自分の死によるものだったなら、彼女を愛する人々に顔向けできるはずがない。
それに、仮にそうでなかったとしても、フォローする言葉が思い浮かばない。
なんと言葉をかければよいのか。
イヴォンヌには、答えが見つからなかった。
(な、情けない主人。どうしましょう)
――というのが、まごつくイヴォンヌの胸中だった。
もちろん、それをメイドが解せるはずがない。しかし、イヴォンヌの世話を長く看てきたメイドである。
「お嬢様、今日はどこかご体調が優れないのですか?」
支度も終盤、イヴォンヌの髪を丁寧に梳かしながら、メアは天気の話をするかのように尋ねてきたのだった。
しかし、イヴォンヌからしたら思いもよらぬ問いかけだった。様子が口ほどにモノを言っていたことに、気づいていなかったのだ。
「いいえ!」
胸の弾むままに、言葉が口から飛んでいく。
「左様でございますか。それでは、メアに粗相でもございましたか……?」
「そんなことないわ!」
イヴォンヌは、この仕事熱心なメイドの懸念を何としても振り払わねばと、そちらの方に頭がフル回転しすぎてしまった。
「ヴァレリアでも変わらぬ献身に頭が上がらないとさえ思うもの!」
刹那、イヴォンヌは口から出て言った言葉に悔いて、思わず身を戒めたくなった。戸惑いだけは顔に出さぬよう、きゅっと唇と目に力を入れて、鏡越しにメアを見つめる。メアは呆気にとられた顔をしていた。ひとつ、ふたつと歩く程度の間が空いて五つ目。
メアはイヴォンヌの背後から隣にまわり、膝をついて身をかがめた。「お嬢様」と声をかけてくる。
イヴォンヌは求められていることを理解し、メアと対面するように向き直る。二人の目線が整った。口を先に開いたのはメアだった。
「大奥様がお亡くなりになられて、とてもお辛かったのですね」




