表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グリッチワーカー~歪んだ理のその先で、独り世界の綻びを繕う~  作者: かんぱく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/62

第24話 パケット解析

深夜の解析室に、本田はいた。

スペクタクル社の自社ビル最上階。通常は戦略会議に使う部屋だが、今夜は本田が1人で使っている。巨大なモニターが3面、壁に並んでいる。


中央のモニターに、今日のIブロックの映像が映し出されていた。

5機のドローンが撮影した映像を同期させて、1つの空間として再構成している。本田がモニターを操作すると、視点が自在に切り替わる。真上から、側面から、斜め後方から。どの角度からも、同じ瞬間を確認できる。

その瞬間というのは、ライカの広域魔法が炸裂した2.5秒間だ。


本田は再生を止めた。

魔法のエフェクトが最大に膨らんだ瞬間。光と衝撃波が、通路全体を満たしている。

そこに、春山がいた。

側面の位置。本田が指示した場所だ。エフェクトの範囲内に、完全に入っている。

本田は映像処理のソフトウェアを起動した。春山の座標を、ピクセル単位でトラッキングする。エフェクトが通過する2.5秒間、春山の輪郭がどう変化するかを可視化する。

処理が走った。


結果が、モニターに表示された。

エフェクトが春山に到達した瞬間、春山の輪郭が0.3秒だけ消えていた。完全に消えた、というより、検出できなくなった。ピクセル単位のトラッキングで、春山の存在が0.3秒間、映像から外れている。

エフェクトが収まると、春山は元の位置に立っていた。

本田は再生を止めて、その0.3秒を拡大した。

春山が消えた瞬間と、春山が現れた瞬間。その間に、エフェクトが通過している。

物理的に、エフェクトは春山を通り抜けた。


「……透過している」

本田は静かに言った。


ドアをノックする音がした。

「入ってください」


セイラが入ってきた。

今日の随行が終わってから数時間が経つが、セイラはまだ起きていた。装備のメンテナンスを終えた後、本田に呼ばれてここに来た。


「確認してほしいものがあります」

本田がモニターを指した。


「この魔法の余波、物理的な生存確率は」

セイラが画面を見た。

エフェクトの規模。魔力密度の数値。衝撃波のベクトル。そして春山の装備、管理局指定の作業着の耐久値。

セイラが端末を取り出して、数秒だけ操作した。


「0%です」

迷いのない声だった。

「回避行動も間に合いません。魔法の展開速度と春山さんの位置関係から、どんな動きをしても範囲を外れることはできない。不確定要素を除外すれば、彼はそこで消滅していなければなりません」

「なるほど」

「でも、消滅していなかった」

「そうです」


セイラが少し間を置いた。

「春山さんの説明、余波が均質に広がらなかった、というものでしたね」

「ええ」

「それは」

セイラが端末を操作して、別の数値を表示させた。


「このエリアの魔力分布データと照合すると、余波の偏りで生存できる可能性はありません。計算上、彼の説明では説明がつかない」

本田が頷いた。

「ありがとうございます。以上です」

セイラが部屋を出た。

ドアが閉まった。




本田は1人になって、モニターに向き直った。

セイラの計算は正確だ。計算上の死を、春山は回避した。物理法則の外側で、何かが起きた。


本田は別のウィンドウを開いた。

管理局のシステムに残っている、春山の清掃記録だ。

Cブロック、Dブロック、Eブロック。担当区域ごとの回収ルートと回収量が、時系列で並んでいる。

本田はその記録をスクロールしながら、パターンを探した。

回収ルートが、不自然なほど最適化されている。同じ区画に複数回入っているにもかかわらず、回収量が一定のラインを維持している。管理局の制限が入った後も、ルートを変えながら効率を保っている。

まるで、区画のどこに何があるかを、事前に把握しているかのような動き方だ。

イレギュラー個体の出現記録。管理局の記録では「個体は自然消滅、春山は孤立後に自力で脱出」となっている。

しかし今日の映像を見た後では、その記録が額面通りには読めない。

本田はウィンドウを閉じた。


証拠はある。しかし証拠だけでは動けない。

春山が何者なのか。何ができるのか。何を知っているのか。

それを直接聞く必要がある。


本田はスマートフォンを取り出した。

管理局のデータベースから、春山の個人情報は事前に取得していた。緊急連絡先として登録されている私用の携帯番号を、画面に表示した。

時刻は午前5時47分だった。

本田は少し考えてから、発信ボタンを押した。




春山の携帯が鳴ったのは、アラームの5分前だった。

いつも通り、アラームより早く目が覚めていた。布団の中で天井を見ていたところに、着信音が響いた。

手を伸ばして、画面を確認した。

非通知ではなく、番号が表示されていた。知らない番号だった。


出た。


「おはようございます、春山さん」

本田の声だった。


春山は少し間を置いた。

「……なぜ、この番号を」

「管理局のデータベースです。緊急連絡先として登録されていました」

「……そうですか」

「こんな時間に失礼。ですが早急にお伺いしたいことがございまして、ご連絡差し上げました」

「用件は」

「昨日の件について、直接お話ししたいことがあります」

「昨日の件、というのは」

「先日の『幸運』について、詳しくお聞かせください」


春山はしばらく黙った。


「幸運の話なら、計量所でもできます」

「いいえ、弊社のビルでお願いします。管理局を通さない形でお話ししたい」

管理局を通さない。

本田は、管理局と春山の関係を把握している。管理局が春山に揺さぶりをかけていることも、知っているのかもしれない。そしてその状況を利用して、春山を管理局から切り離した場所で接触しようとしている。


「……場所と時刻を教えてください」

「ありがとうございます。詳細はメッセージで送ります」

通話が切れた。

春山は携帯を布団の上に置いて、天井を見た。

本田が動いた。

管理局を通さない形での接触。これは「排除」ではなく、やはり「利用」だ。

問題は、利用されることが春山にとって、どういう意味を持つかだ。

利害が一致するなら、利用される側にも得がある。しかし本田が何を求めているかが、まだはっきりしない。

春山はアラームが鳴る前に起き上がった。



「……仕様の確認が必要だ」

独り言が、六畳一間に落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ