第3話:ボルトの喪失、ナルミの普遍
補足データ。
ボルト:推定50代、女性。
ナルミ:推定10歳、少年。
終末世界は、本日も異常なし。
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某都心部郊外:敵陣アジト付近。
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灰色の崩れたビル。
崩壊都市の片隅にある郊外。
一人の老女は、その場に留まっていた。
「どうして先に逝っちまったんだい」
潰れた片目を覆う黒い眼帯。
ぼやける一つの視界。
その片隅に、愛しいあの人の亡骸がそこに在った。
「約束したじゃないか」
しゃがれた声が静かに落ちる。
「猫を飼う約束、忘れんじゃないよ」
割れた地層に枯れる大地。
砂埃の舞う足跡。
重くなった彼を引き摺る。
上がる息、滴る汗。
「……嫌なもんだよ、無駄に歳を食っちまったね」
それでも前に進んだ。
穴に彼を埋めた。
彼女なりの弔いの形。
被せた土。
供える花などどこにも無かった。
「ふう……」
ーーどさり。
墓前に座り、無言で眺める。
浅い呼吸を整える。
ーーさわり。
生温い風。
白くなった髪を揺らす。
一呼吸置き、老女は立ち上がる。
「……ああ、あの時の猫、迎えに行ってやらないとね」
転がるゴミ。
使い物にならない資材。
帰路はいつも通り、何も無かった。
そして、ボルトは家に辿り着く。
家の裏のゴミ捨て場に足を進めた。
「帰って来たよ」
返ってくる事のない返事。
そこには1匹の影すらなかった。
「……なんだい、お前までアタシを置いていくのかい」
丸くなる老女の背中。
背負われたショットガン。
眇めた目は静かに伏せられたーーその瞬間。
ーーガタンッ!
頭上から物音が響き、顔を上げる。
黒い影が屋根から落ちるのを確認する。
ーードサッ!
老女は片目を眇める、そしてーー。
「いてっ」
背中の獲物に手をかけた。
ゴミ捨て場の屋根上から転げ落ちる、謎の黒い物体。
「…………誰だい?」
それは、十にも満たない少年の姿だった。
「んあ?……寝てた……」
ぽりぽり、頭を掻く少年。
癖っ毛は絡み、砂のついた頬。
「……なんだい、野良猫か」
「あー、びっくりした」
肩幅の合わない、ボロ布同然のシャツ。
「……随分ボロ臭いね」
「せっかく昼寝してたのに」
「それにマイペースかい」
ボルトは手を獲物から離し、呆れ顔を曝す。
少年は目元についた砂を軽く手で払う。
そして、その場に寝転んだ。
「…………寝よ」
「待ちなボウズ」
「……おれ?」
気だるげに向く少年の視線。
ボルトは、静かに告げる。
「ここにいるなら、ショバ代は払ってもらうよ」
「えー……こんなボロ家なのに?」
「当たり前さね」
「やだー」
ポケットまさぐる老女。
それを見つめる少年。
少年の頭に彼女は放り投げた。
「餌ならやるよ」
「……ん、ならいいよ」
「屋根だけ貸してやる」
「わかった」
頭に落ちた小さな物体。
少年は頷き、ビニールを破く。
「でも、おれ、18時間睡眠が基本なんだよね」
「働かない奴は野垂れ死ぬだけさ」
「……ま、気が向いたらね」
包装を破いた小さなお菓子。
「お前さん、名前は?」
「ナルミ」
「ふん……随分大層な名前だね」
少年は首を傾げ、見上げる。
「ばーちゃんは?」
「ボルトだよ、覚えときな」
「ふーん」
ーーぱくり。
少年は、羊羹バーを一口食べた。
♯野良猫少年
♯羊羹予備軍
ボルトとナルミの出会い編でした。
出会い編はこれにて終了です。
次回はその後の彼らのお話予定です。
お読みくださり、ありがとうございました。




