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終末世界の生存記録。  作者: 雪見もち子
【2章】過去軸:出会い編

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第1話:不屈の少女、最強の少年

補足データ。


亜美:12歳、少女。

響:14歳、少年。



路地裏で出会ったのは、ボロボロになりながらも立ち続ける少女だった。


「その目、気に入った」


最強の少年と、不屈の少女。


金属バット彼女とノンデリ彼氏になる二人の、最初の記録。


終末世界は、本日も異常なし。

ーーーーーーーーーーー

場所:某都心部地区内の路地裏

ーーーーーーーーーーー

響はいつものように、瓦礫の路地を歩いていた。

今を生きる為の物資の補給。


繰り返し行う、ただの日常。

それに意味は無かった。


そしてその日、響はいつもの日常とは違う、あるモノを拾った。



錆と血の匂いが混ざった路地裏で、男たちの呻きが途切れ途切れに転がる。

メリケンサックの先から滴る赤が、地面に落ちてはじけた。


「……やっぱお前らも、つまんねーな」


理由はない。ただ、そこに“邪魔なもの”があったから片付けた、それだけだった。


響は興味を失ったように、人だったモノをポイと放る。

放った先にある瓦礫の山に残骸が転がり落ちた。


ふと響は違和感を覚え、立ち止まる。

そこに建っていたはずの建物が、瓦礫の山へと変わっていた。

瓦礫には、何本もの鉄パイプが突き刺さり、周囲には崩れた残骸が散乱している。


ーーカタリ。


瓦礫の山奥から、ノイズのように浮く小さな物音。

普段ならば気にしない物音。

だが、自然と響の視線は上がっていた。


「……これ、お前がやったの?」


瓦礫の山奥にある影。

そこにいたのは、ボロ布のような服をまとった少女だった。


細い体。

血と泥に塗れた肌。

ザンバラの黒髪。

ふらくつ足元に、力の抜けた右腕。


まともに動いていないのが見て分かった。

けれど、少女はそれでも立っていた。


「……だったら、なんだよ」


吐き捨てる声は獣のように低く、唸り声のように警戒心を滲ませていた。

その声色に響は少しだけ笑った。


「口悪ぃ女。……いや、躾のなってないメスガキか」


響はその回答に満足し、踵を返すように半歩身を翻そうとする……だが。


「……おい」


淡々と、だが不思議と不快ではない短い声が響の足を引き留めた。


「何?」


「感謝は、言わない」


「あっそ。別に俺も求めてないけど?」


空気のように自然と流れる響の声。

そこには何の感情も乗っていなかった。


その声色に、引っかかりを覚えた少女は睨み返す。

けれど、返って来るのは響の軽薄そうな笑み。


少女の瞳が更に細まった。


「……お前、何でそんなに強いんだよ」


「人類最強だから」


「テメェ……ふざけてんのか?」


「ホントの事だけど?」


打てば響くように返ってくる少女の苛立ちに、響は面白そうに目を細めた。


「なあ、馬鹿そうなお前にいい言葉、教えてやるよ」


「バカは余計だ、クソ野郎」


暴力一辺ぼうりょくいっぺん


聞き馴染みのない言葉に、僅かの間が流れる。


「……あ?」


少女の口がポカリと開いた。


響はその反応にますます笑みを深めた。


「思考回路が暴力しかないって意味」


そして、響は諭すように穏やかな声で少女に告げた。


「……つまり、単純思考のおこちゃまってこと」


「んだとコラ!!」


一歩踏み出そうとする。

けれど、少女の体勢が僅かにズレた。


響は視線だけでそれを止めた。


「あーあ。ほら、分かってないからそうなってんだろ」


「……ッチ」


顔を背ける少女。

肩を竦め呆れたように見つめる、響の視線の先。


「脚と右腕、ほぼ折れてる癖に、なんでまだ立ってんの?」


少女の頭がぴくりと揺れた。


「立てるわけないだろ、馬鹿じゃん」


「……ふん、気合いがありゃいける」


「無理だから」


「アタシは強い」


胸を張る少女に、響は呆れまじりの視線を向ける。


「へえ……俺に助けられた癖に?」


「頼んでない」


「腹立つな、このクソガキ」


それでも響は、どこか楽しそうだった。


「でもお前、悪くないね。その目、気に入った」


「は?」


「良いよ。俺がお前を拾ってやる」


「はぁああ!?」


反射的に少女が叫ぶ。

響の言葉に驚き目を見開いた。


次の瞬間ーー。


響は少女の首根っこを掴んだ。


「ぐっ……っ!」


引き寄せる力。締まる首に小さく唸る少女。


けれどそれは一瞬のこと。


響は軽々と持ち上げ、そのまま少女を肩に担いだ。


「離せ!!このインゲン野郎!!」


「正しくは陰険いんけんな」


ビクリと少女の肩が小さく跳ねた。


「……」


指摘に無言を貫く。


「やっぱお前、脳みそ空っぽのクソ猿だったわ。あーあ、教育しないとな」


「やーめーろー!!」


「はいはい」


揺れる視界。力のない右腕。それでも、少女は必死に暴れた。


「で、お前名前は?」


「……誰が言うか」


拗ねたように、口を引き結ぶ少女。


響は一笑に付した。

そして、少女の手元に注視した。


握られているのは、折れた鉄パイプ。


そして、瓦礫の下へ視線を流す。

異物のように地面に転がるその存在を見て、響は目を細める。


「お前、その獲物、合ってないよ」


少女は怪訝な顔つきで響を見つめた。


「それじゃなくて、お前に合ってるのはこっち」


響は瓦礫の山を指差すと、少女の視線が吸い寄せられていく。


そこにあったのは、金属バット。


少女はそれを無言のまま見つめる。

そして――。


「……亜美」


ぽつりと短く呟いた。


「へえ、悪くないじゃん」


「……フン」


肩の上で暴れるその存在。

まるで新しい玩具みたいに扱いながら、響きは笑った。


「俺が使い方、教えてやるよ。自称弱者じゃない人間さん」



二人の出会いと、金属バットを選んだ日の記録。



♯狂犬少女

♯最強少年

ーーーーーーーーーーー

お読みくださり、ありがとうございました。


今回は、響と亜美の出会い編でした。

次回は、二人とはまた違う少女と少年の出会い編を更新予定です。

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