第1話:不屈の少女、最強の少年
補足データ。
亜美:12歳、少女。
響:14歳、少年。
◇
路地裏で出会ったのは、ボロボロになりながらも立ち続ける少女だった。
「その目、気に入った」
最強の少年と、不屈の少女。
金属バット彼女とノンデリ彼氏になる二人の、最初の記録。
終末世界は、本日も異常なし。
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場所:某都心部地区内の路地裏
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響はいつものように、瓦礫の路地を歩いていた。
今を生きる為の物資の補給。
繰り返し行う、ただの日常。
それに意味は無かった。
そしてその日、響はいつもの日常とは違う、あるモノを拾った。
◇
錆と血の匂いが混ざった路地裏で、男たちの呻きが途切れ途切れに転がる。
メリケンサックの先から滴る赤が、地面に落ちてはじけた。
「……やっぱお前らも、つまんねーな」
理由はない。ただ、そこに“邪魔なもの”があったから片付けた、それだけだった。
響は興味を失ったように、人だったモノをポイと放る。
放った先にある瓦礫の山に残骸が転がり落ちた。
ふと響は違和感を覚え、立ち止まる。
そこに建っていたはずの建物が、瓦礫の山へと変わっていた。
瓦礫には、何本もの鉄パイプが突き刺さり、周囲には崩れた残骸が散乱している。
ーーカタリ。
瓦礫の山奥から、ノイズのように浮く小さな物音。
普段ならば気にしない物音。
だが、自然と響の視線は上がっていた。
「……これ、お前がやったの?」
瓦礫の山奥にある影。
そこにいたのは、ボロ布のような服をまとった少女だった。
細い体。
血と泥に塗れた肌。
ザンバラの黒髪。
ふらくつ足元に、力の抜けた右腕。
まともに動いていないのが見て分かった。
けれど、少女はそれでも立っていた。
「……だったら、なんだよ」
吐き捨てる声は獣のように低く、唸り声のように警戒心を滲ませていた。
その声色に響は少しだけ笑った。
「口悪ぃ女。……いや、躾のなってないメスガキか」
響はその回答に満足し、踵を返すように半歩身を翻そうとする……だが。
「……おい」
淡々と、だが不思議と不快ではない短い声が響の足を引き留めた。
「何?」
「感謝は、言わない」
「あっそ。別に俺も求めてないけど?」
空気のように自然と流れる響の声。
そこには何の感情も乗っていなかった。
その声色に、引っかかりを覚えた少女は睨み返す。
けれど、返って来るのは響の軽薄そうな笑み。
少女の瞳が更に細まった。
「……お前、何でそんなに強いんだよ」
「人類最強だから」
「テメェ……ふざけてんのか?」
「ホントの事だけど?」
打てば響くように返ってくる少女の苛立ちに、響は面白そうに目を細めた。
「なあ、馬鹿そうなお前にいい言葉、教えてやるよ」
「バカは余計だ、クソ野郎」
「暴力一辺」
聞き馴染みのない言葉に、僅かの間が流れる。
「……あ?」
少女の口がポカリと開いた。
響はその反応にますます笑みを深めた。
「思考回路が暴力しかないって意味」
そして、響は諭すように穏やかな声で少女に告げた。
「……つまり、単純思考のおこちゃまってこと」
「んだとコラ!!」
一歩踏み出そうとする。
けれど、少女の体勢が僅かにズレた。
響は視線だけでそれを止めた。
「あーあ。ほら、分かってないからそうなってんだろ」
「……ッチ」
顔を背ける少女。
肩を竦め呆れたように見つめる、響の視線の先。
「脚と右腕、ほぼ折れてる癖に、なんでまだ立ってんの?」
少女の頭がぴくりと揺れた。
「立てるわけないだろ、馬鹿じゃん」
「……ふん、気合いがありゃいける」
「無理だから」
「アタシは強い」
胸を張る少女に、響は呆れまじりの視線を向ける。
「へえ……俺に助けられた癖に?」
「頼んでない」
「腹立つな、このクソガキ」
それでも響は、どこか楽しそうだった。
「でもお前、悪くないね。その目、気に入った」
「は?」
「良いよ。俺がお前を拾ってやる」
「はぁああ!?」
反射的に少女が叫ぶ。
響の言葉に驚き目を見開いた。
次の瞬間ーー。
響は少女の首根っこを掴んだ。
「ぐっ……っ!」
引き寄せる力。締まる首に小さく唸る少女。
けれどそれは一瞬のこと。
響は軽々と持ち上げ、そのまま少女を肩に担いだ。
「離せ!!このインゲン野郎!!」
「正しくは陰険な」
ビクリと少女の肩が小さく跳ねた。
「……」
指摘に無言を貫く。
「やっぱお前、脳みそ空っぽのクソ猿だったわ。あーあ、教育しないとな」
「やーめーろー!!」
「はいはい」
揺れる視界。力のない右腕。それでも、少女は必死に暴れた。
「で、お前名前は?」
「……誰が言うか」
拗ねたように、口を引き結ぶ少女。
響は一笑に付した。
そして、少女の手元に注視した。
握られているのは、折れた鉄パイプ。
そして、瓦礫の下へ視線を流す。
異物のように地面に転がるその存在を見て、響は目を細める。
「お前、その獲物、合ってないよ」
少女は怪訝な顔つきで響を見つめた。
「それじゃなくて、お前に合ってるのはこっち」
響は瓦礫の山を指差すと、少女の視線が吸い寄せられていく。
そこにあったのは、金属バット。
少女はそれを無言のまま見つめる。
そして――。
「……亜美」
ぽつりと短く呟いた。
「へえ、悪くないじゃん」
「……フン」
肩の上で暴れるその存在。
まるで新しい玩具みたいに扱いながら、響きは笑った。
「俺が使い方、教えてやるよ。自称弱者じゃない人間さん」
二人の出会いと、金属バットを選んだ日の記録。
♯狂犬少女
♯最強少年
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お読みくださり、ありがとうございました。
今回は、響と亜美の出会い編でした。
次回は、二人とはまた違う少女と少年の出会い編を更新予定です。




