第四章 Background of Spirited Daughter予想 6
六
その日の夜、仁楠は塚をご飯に誘った。長い一日だ。
亜院の話に触発されたわけだが、必ずこの場ですべてを話そう、というものではなかった。ただ、場を設けて、もし万が一話せそうな雰囲気になれば話してしまって、楽になろう、という魂胆であった。
しかし、個室居酒屋なら話しやすいだろう、と予約した仁楠だったが、あいにく隣室で大学生たちが騒いでおり、ムードは悪いな、と早々に断念した。
「主任、ちょっといいですか。先生たちに、すごく自信満々に話されていたじゃないですか。あれ、すごいなーと思って」
塚は、そんな仁楠の落胆などつゆ知らず、自分のしたい話を始めた。
「たしかに、自信あります、っていう態度の方が相手は安心してくれると思いますけど、慢心すると、足元をすくわれることってあるじゃないですか。
自分から率先して動く、って怖いじゃないですか」
塚の話は、先日のレスターでの愛内との一件についてだった。あれ以降塚は、自分はまだまだだ、と少し卑屈になっていた。
「結局、自信をもつことと、謙虚になることと、どっちの方が大事なんですかね」
「両方だよ」
仁楠は即答した。まだ一口しか飲んでいないので、ろれつも意識もしっかりしていた。
「どっちが大事だろうって迷うときは、両方大事だよ。
自信をもって、かつ謙虚に対応できるなら、誰にも負けない優秀社員だ。理論上は両立可能だよ。常に、自分はまだまだ伸びる、成長する、と自信をもって、だから学び続けよう、と謙虚な態度でいれば、いざという事態を目の前にしたら、自然と何も恐れることなく物を言えるようになるさ」
でも、と仁楠はつづけた。
「あくまで理想論。できる人はめったにいないけどね」
「主任はできているじゃないですか」
「多少、ね」
心の準備もせず誘ってしまい、結局本題を言い出せない今の自分の事態があるので、これいじょうは大きなことは言えない仁楠であった。
「でも、どうしましょう。騒音対策って、わたしたちに打てる手はありますか」
「これが本当に住民からの相談なら、防音壁も手段なんだけどね。
いかんせん、増真くんたちのことを知ってしまっている」
自分たちで考えて、校庭の広さという大前提に挑み、大人を相手取った彼らに対して、校庭がむしろ狭くなる防音壁建設と言う結果をもたらしたくない。仁楠だけでなく、教師陣もそう肩入れしていた。
「日田子議員からさ、議員の仕事の邪魔をするなよ、なんて言われたんだけどさ。
こうして、学校も、生徒も、場合によっては住民や議員との利益の折衝をしなきゃいけないんだからさ。どんな仕事も、政治家みたいなものだよね」
「わたし立川市民なので、次の選挙で絶対落としてやるんです。
あー、落とす、っていう票があれば、もっと投票率上がると思うのにな」
それはいい案だ、と仁楠は同意した。




