第三章 カーボンニュートラルの存在と滑らかさ 14
十四
その日の帰りは、郡馬は直帰で、仁楠と塚がオフィスに戻ることになった。
「なんだかわたし、少し成長した気がします。思い切って、ええい、と行動するのって、気の強さでやるものじゃないですね。自分の中でちゃんと知識がある状態じゃないと、ですね。
パワープレイだけじゃない、なんていうか、スマートな、滑らかな解決方法っていうんですかね」
「よく分かってきたね。そういうスタンスはぼくも好きだよ」
「好き、ですか」
「ごめんね? 不快な思いをさせる言葉をつかったね? あるいは勘違いをさせたかな? 年をとると涙腺が緩むっていうけど単純に口が軽くなるようだね?」
「いや、ぜんぜん、そういうのじゃないですよ。あー、でも、人から好きって言われるの久々な気がします。彼氏も、最近全然言ってくれないんですよね」
助手席で塚がううーんと伸びをしながら、恋の愚痴を始めた。あまり脈絡もなく話し始めて、仁楠をなにか試すような口ぶりでもあった。
「そんなに不満があるのに、なんで付き合ったんだい?」
「いやー、なんと言いますか。特に好きともなんとも思っていなかったから、わたしも好きですー、って言っちゃったんですよ。ほんとに好きだったらそんな軽くオッケーとか言えませんよ。
でも最近は本当に冷たいんですよね。わたしのことを軽くみてる気がするんですよ。確かめたいな」
ブツブツ言う塚に、仁楠は一言さとした。
「たとえばさ。耐震テストならさ、壊れるまでテストするでしょう。テストって、それくらいしなきゃ分からないと思うんだ。関係が壊れるまで試すなんて、人間関係ではリスキーだよ。
結局は思い込むしかなくて、信じてもいい、っていう人ならいいんじゃないかな」
主任、いいこと言いますね、と塚はニコッと笑った。高説じみたことを言いながら、自分も塚のDNAを調べようとして、知りたくもない事実が判明しそうになり傷つきかけていることを思い出し、本当にその通りだよな、と独りごちた。
その日の夜、高木から仁楠へ電話があった。
「すみません、勝手に残っていたサンプルで抽出をしていたのですが、結果が出ました。
一致しました。女性と、先日の男性ではない方とのDNAが」
塚と、自分と。
悲報というのは、たいていが、前触れなくもったいぶられることなく突然来るな、と仁楠は天を仰いだ。




