第三章 カーボンニュートラルの存在と滑らかさ 13
十三
郡馬、塚、尾怒、愛内の四人で、倉庫内にある事務室で簡単な会議が始まった。一方で仁楠は、レスターの昌と話していた。
「ハンブルク研究所さん、以前、ボルドー小学校とちょっとひと悶着ありましたよね」
完全機密を通していたつもりであったので、昌からのその確認に仁楠は驚いた。その様子を見て昌は慌て、なだめるように、
「あ、違うんです。あそこの押照先生、実はわたしの元上司でして」
昌はまだ二十代であったが、教師からこの仕事に転職してきたとのことであった。初めての赴任校で教頭だったのが押照だったそうで、今でも連絡をとっているそうだった。
「そうですか。押照先生、あの案件をそんなベラベラ広めちゃっている感じなんですね」
「それは違うと思います。押照先生にとってわたしは、恐らく、少し特別な存在ですから」
昌の言う特別、というのは、押照と昌とが解決した小学校での一件に由来する。
小学校の職員室で起きていたのは、校長がすべての業務を放棄して、教頭の押照にすべての管理業務が集中する地獄の日々であった。
「その校長のお兄さんが議員さんで、迂闊に文句も言えなかったんですよね」
押照からすれば、自分からそれを教育委員会へ申し出ることは、出世の道に悪影響が出る可能性があり、一層はばかられていた。
「本当のところ、わたしはそこまでこだわって先生になったわけではなくて。教職の資格を持っていて、なんとなくやりたい仕事が分からなくてとりあえず、という具合でした。それもあって、押照先生に、わたしが告発しましょうか、と言ったんですよ」
内部告発である。いわゆる無敵の人状態になった昌は、校長を告発し、退職に追い込んだ。
昌はすぐに退職したが、それにより校長も退職に追い込まれ、押照はその後の出世街道をひた進んだ。押照からすると、昌に頭が上がらない状態であった。
「そんなこともあって、よくご飯に誘われるんです。そして、この前の、生徒たちのデモみたいな話を聞いて」
「そうですね。ちょっと巻き込まれちゃって」
「リベンジはされないんですか?」
リベンジ、という言葉に、仁楠は反応した。
今、和井得は、いつでも同じ依頼に対応できるよう、手ぐすねを引いて待っている状態である。仁楠も、その後の小学校の行く末は気になっていた。だがそれらはあくまで仕事としてであり、リベンジ、という言葉が持つような闘争性までははらんでいなかった。
だが改めて言われると、仁楠も和井得も、悔しい、という気持ちが原動力になっているのは確かであり、一度現状でも伺ってみようか、という気持ちになった。
ヒョコ、と塚が部屋から出てきた。そうだ、彼女もリベンジしたいかもしれないな、と仁楠は、ちょっと口角を上げた。
そんな彼の表情を、今日の仕事の成功に対する、キザな反応だと思った塚は、吹き出すように笑った。




