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第三章 カーボンニュートラルの存在と滑らかさ 12

十二




「話の腰を折るようで悪いですがね、郡馬さん。それも難しい話でしょう。


 省エネを進めつつ、創エネも進めて、プラマイゼロになるようにする、という言葉だという理解でいいですよね」




 郡馬はきっちりうなずいた。




「正確には、完全にゼロ、という事例はまだまだ少ないのですが。


 まずは省エネだけで五十パーセント削減を目指すZEB READY、省エネと創エネとで七十五パーセント削減を目指すNEARLY ZEB、そして百パーセント削減を目指すZEB、です。


 一つ目のZEB READYの段階に至るだけでも十分な成果です」


「だとしても、少なからずこの上尾倉庫では無理ですよ。


 今あるこの建物に、例えば太陽光発電を利用した給湯・熱交換システムを新たに構築することは不可能でしょう。あとは建材を高断熱材にしたり、あぁ、エアコンを高効率化のものにすべて差し替える、などですかね。どれもその工事をするコストがあまりにも大きい。そしてそれで得られるメリットがどうしても、」




 スラスラと創エネルギー設備の単語が出てくる尾怒は、やはり、このカーボンニュートラルについて、端から諦めていたわけではなかったのだろう。




 上からの命令に初めから背くような社員ばかりで、会社が大きく成長するわけがない。この社会は、そんな、現実的に無理だと分かっていてもやるだけのことはやってやる、と力技で時間をつぎこむ会社員が支えている。尾怒も、その一人だった。諦めていなかった。




「おまたせしました」




 尾怒が話し続ける中、塚が現れた。そして後ろには、レスターの愛内と、愛内の部下であるマサがいた。




 塚が小さく、右手の親指を上げて、仁楠と郡馬にアピールをした。商談が成功した、の意味なのか、仲直りできましたよ、の意味なのかは分からなかったが、とかく成功であることは確かなようであった。




 塚は、尾怒と名刺交換をしながら、ここからはわたしが頑張りますよ、とでも言わんばかりに仁楠と郡馬に笑顔を向けた。




「愛内さんとお話しました。レスターとして、高品質な配送を保証したい以上、ローザンヌ社のスタイルの貨物を受託するのは難しい。だけれども、国内の貨物の集荷量自体は頭打ちするし、そのキャパシティーを増やそうにも、環境問題にも直面する。それでいて売り上げも伸ばす必要はある、という話でした。


 それでも、レスターの倉庫はどこも最新技術が投入されています。ZEBで言えば、NEARLY ZEBの状態を維持しています。


 環境面でいえば、ここローザンヌ社上尾倉庫より、一歩先を行っています」




 はっきりとした口調でつらつらと話す塚に、仁楠と郡馬は、新人の成長を間近で見て少しほほえましい表情を浮かべていた。尾怒は、まだレスターの来訪に驚いたままのようで、




「それで、わが社にどういった関係で?」




 とうろたえた。そこに、愛内がすっと足を一歩前に出した。




「わたしどもとしても、あくまで社内環境の整備として推進していた事業ではありますが、この事業を、ハンブルク研究所さんを通じてコンサルタントとして広めることができれば、我々の集荷業務量は増やすことなく、業界全体としての業務の環境改善・向上を望むことができる、と提案いただきました。もちろんビジネスにもなりますしね」




 やっと状況を飲み込めた尾怒が口を開いた。




「レスターが、この上尾倉庫のZEB化のコンサルタントをしてくださる、ということですか」




 塚がにこっと笑って、説明を始めた。




「正確には、ZEB READYを目指す、ですが。


 たくさんのメリットがあります。まず、これだけ多くの方が働いているので、冷暖房環境が整えば、より人が働きやすくなる。光熱費も半減する計算になります。それと、どうしても大型トラックの出入りの騒音が問題になりますが、気密性が上がればそれも改善されます。


 それらが進めば、この倉庫の不動産としての価値も上がります。会社の資産としても大きな魅力かと思われます。あと、環境省から補助金も出ますよ」




 すぐ補助金に頼る、と苦い顔をしていた塚も、ようやく会社員の一員になった。




「塚さん。メリットは分かりました。環境問題に対する取り組みを半ば放棄しようとしていた我が社としても、できることがあるなら、またビジネスとしても有効だと分かるなら、取り組めるものなら取り組みたい。


 ですが、先ほど郡馬さんにも話していたのですが、この上尾倉庫をはじめ、我が社の各地方の大型倉庫のほとんどは中古物件なんです。


 新築ではない改修での建物のエコ化は、その工事費の回収に相当な時間がかかるでしょう。現実的では」




 塚は、大きく口角を上げた。入念な準備は、表情にまで余裕をもたらす。




「可能です」




 塚はトートバッグから、いくつか事例を出した。




「工事が必要なのは事実ですが、低コストで高パフォーマンスな結果が出た例も多数あります。


 ローイーガラスという、設置するだけで暖房効果が期待できるエコガラスへの張替え、照明のLED化とそれに付随して、人感センサーによる効率的な照明利用。これらの導入だけで、無駄になっている消費エネルギーの削減は大いに期待できます。


 これらの工事費なら、補助金で結構帳消しになっちゃいますよ」




 愛内は、




「我々も、ハンブルク研究所さんと一緒に勉強しながらになりますが、ローザンヌさんに、業界に、それから地球環境に貢献できるのなら、喜んでこのコンサル事業を進めたいです」




 と前のめりになりながら尾怒の前へ出た。尾怒も、そこまで話が具体的なら、と、重かった腰を上げた。




「塚さん、愛内さん。詳しく話を聞いていいですか」

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