第三章 カーボンニュートラルの存在と滑らかさ 11
十一
「尾怒さん、わざわざありがとうございます」
郡馬は仰々しく頭を下げた。というのも、わざわざ埼玉県の倉庫まで呼びつけているからであった。
時系列でいえば、先週の木曜日にローザンヌ社にヒアリングを行っており、その翌日、郡馬と塚とがレスターを訪問している。そして週明けの月曜日である今日、ハンブルク研究所とローザンヌ社は再度の会議を開いていた。仁楠と郡馬、尾怒の三人である。
「それで、今回は、我が社への提案があるとのことですが」
「ええ。それで、この場所にお越しいただいたわけです」
「ここ上尾の倉庫は、我が社の関東支部で基幹となる倉庫です。ちょうど先週、仁楠さんもいらっしゃったとか」
仁楠は黙って頭を下げた。今日は郡馬に一通りをまかせるつもりだった。
「美女縫に、今日は上尾倉庫に行くと伝えると、怪訝な顔をしていましたよ。ロジスティックスの現場を見るなら、あれだけラストワンマイルの話をしたのだから、都内の小さなサービスセンターを紹介しますのに、と。ただ、意図があるんですよね」
尾怒の言葉には、美女縫の話した案をないがしろにするようなニュアンスが含まれていた。尾怒としては、上層部が決めたカーボンニュートラルを、表向きは実現しようと努力している、とアピールするために、恐らく部内では本気で案を考えさせたのだろう。その上で、たいした案はでませんね、やはり現状維持しかありません、と利用したいのが尾怒なのであろう。美女縫の熱弁と、尾怒の冷めた態度とが、それで説明できる。
だが仁楠も郡馬も、直接賀臼本人に問いただしたわけではないとはいえ、これは賀臼からの挑戦状だと受け取っている。
尾怒を納得させる方策を提示してみろ、という挑発をされたようなものだった。
郡馬は軽く倉庫を見渡した。仁楠の調査通りだな、と思い、勇気をもらい、自信をもって話し始めた。
「非常に多くの方が働いていますね」
「省人化がうたわれていますが、既にある倉庫を利用しているので、大型改修は難しいものでして。マンパワーで解決しています。
ただ、労働条件は悪くありませんよ。時給は千二百円から、分単位での労働管理。一人ひとりに過度な労働量を割いてしまうことにならないよう、十分な人員を投入しています。雇用創出という面でも、悪い話ではありません」
三人が見渡す限り、テナント一帯で数多くの人員が働いていた。金髪はざらで、ピンクの髪をしている人もいた。服装もまばらだが、汚れ防止なのかエプロンをしているので、それはよく分からない。靴だけは、全員安全靴を支給されているのか、統一的であった。
「尾怒さん、ZEBという言葉を知っていますか」
「ゼブ?」
「ゼロエネルギービルディングの略です」
勘の良い尾怒は、なるほど、とひとつ相槌をうち、ハンブルク研究所の言わんとするところを予知した。
「トラック配送に目を向けすぎず、この倉庫、つまり集荷・積込現場で、エネルギーについて改善しよう、ということですね」
配送が無理なら、電気やガス、熱エネルギー収支がゼロの倉庫をめざすのだ。




