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第三章 カーボンニュートラルの存在と滑らかさ 8

 八




「わたし、郡馬さんに嫌われちゃいましたか」




 そんなことないよ、と郡馬は答えた。レスターからの帰路につく車内で、運転は郡馬であった。




 先ほど仁楠にいきさつを電話で話したところ、塚は途中で下ろして直帰させてあげよう、と提案されていた。郡馬も、自分の監督不足だ、と、塚のことは一切責めず、むしろその場で泣いてしまったり倒れなかったことに感心までしていた。郡馬は初めてのクレームを受けたとき、動けなくなり男泣きをした過去があった。なので、郡馬は、




「頑張ったじゃないか。頑張れるのは偉いことだよ」




 と塚をねぎらった。




 塚は、悲しい表情、というより、不機嫌な表情をしていた。郡馬からするとその違いは分からなかったが、塚は明らかに不機嫌であった。




 その原因の一つは、ついさきほどの郡馬の返事にもあった。頑張ったことは偉いよ、とか、努力したことは認めるよ、といったフォローをされても、塚にとっては、内容が無いフォローは受け入れられないのだ。言い換えると、お腹がすいている塚に対して郡馬はとりあえず料理を出したが、こんなのじゃ満足できない、と機嫌を損ねているようなものであった。




 塚は、父がいない、ということもあり、幼い頃祖父母宅に預けられていた。今も治らない天然な要素はあったが、元来聡明であったため、塚は毎日非常に褒められて育ったのであった。




 つまるところ、称賛を受け入れる感情の器量はあったが、ミスをしたときの、動揺している心の状態で、他人からのフォローを正面から受け入れられる度量はまだ持ち合わせていなかったのだった。




 郡馬も郡馬で、いつまでもへそを曲げるなよ、自分の機嫌は自分でとりな、と、彼としてはそんな意図はなかったが、結果的には少し冷たいこと言ってしまった。




 カーエアコンのつまみを、郡馬はなんどもひねっている。寒すぎるか、蒸してくるか、車内が一向に快適にならない。




 立川駅で塚を降ろして直帰させた後、郡馬はそのままロータリーで、椅子を思い切りリクライニングさせて、エナジードリンクの缶を開けて、半分を一気に飲み干して、




 自分を責めた。




 ハンブルク研究所に車を返した後、郡馬がオフィスに戻ると仁楠がすでに待機していた。




「すみません、自分の監督不足です」


「いいから、顔を上げて」


「仁楠さんにもわざわざ残ってもらってしまって」


「今日は郡馬くんとご飯に行っておきたかったからさ。さぁ、ぼくも議事録まとめを手伝うから、終わったら少し飲もう。今日は金曜日だから、少し飲みすぎても大丈夫だよ。立川にでも行こう」




 この地域に住む人は、みな、立川に飲みに行く。

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