第二章 デオキシリボ核酸の存在と現実ギャップ問題 14
十四
「上手くいきましたね!」
李今と二人だけで打ち上げに来た仁楠もご満悦であった。
塚は今日はデートらしい。だがそれくらいでモヤモヤすることもなく、仁楠は酒が進んだ。
「主任、ひとつ聞いていいですか。どうして塚にまかせたんですか」
李今の疑問は、二週間前の出来事まで遡る。造園会社から根株移植の話が出てから、李今はすぐ、発展途上の研究が絡むものは、あれこれと大学と絡めれば、国から予算が出せる、と踏み、大きく動き始めた。仁楠も関係機関に連絡をとり、該当研究をしている機関をあたった。幸い、ハンブルク研究所は学と官の人脈が広いため、短期間で話がまとまった。だが途中で、
「塚さん。これらとは別に、この案のメリットを考えて、当日、プレゼンできるかな」
と仁楠からの指示があった。部署内で、仁楠は塚に甘すぎる、と噂になっていたので、李今は大きく驚いたのだった。
結果的に塚がプレゼンした、余剰木材の話は仁楠は気づいていたので、塚がそこに行きつかなければそれを口出ししようか、と思っていたが、結果的に自身で気づき、うまくまとめ上げた。もちろん、そうした、案としてはあるから大丈夫だろう、といった気持ちがあったのは、理由の一つであった。
そしてもう一つは、外流から聞いた話で、仮に塚に厳しくあたったとしても、それが原因で、黒根の私怨により自身のクビが危うくなることはないだろう、と自信をつけたこともあった。というか、その方が強かった。
いや、もう一つ、理由があった。
三人で緑課を訪問した帰り、塚が仁楠に声をかけて聞こうとしていた話である。翌日、やっと仁楠は塚に確認をとれた。
「今日、わたし、何もできなかったです。
そりゃあ、見学がメインだったと思いますけど。それでも、李今さんなんかはわたしとそこまで入社歴変わらないですし、それでも、帰りの車内ですぐ対案を考えたり、オフィスに戻った後も、もうどこかにアポとったりしていたって話ですし。
そういう、行動力みたいなの、どうやったら身につくんですかね」
そんな、仕事に対する悩みだったのだ。
「行動力って、やっぱり、天性のものだと思うんですけどね。フットワークの軽さ、というか。だから、もう、間に合わないんですかね。
ほら、前、わたしの夢の話したじゃないですか。お父さんの話。でもわたし、探すとか言いながら、探偵とか興信所とか、怖くて相談できなくて。そこまではしなくていいよね、とか思っちゃって」
黒根と同じだな、と思い、親子は似るのだろうか、と仁楠は邪推したが、ブンブンと首を振った。
「天性だとか、遺伝とかじゃないと思うよ」
「遺伝?」
「忘れてくれ」
んん、と大袈裟に咳ばらいをして、仁楠はつづけた。
「行動力は、生まれ持ったものじゃないと思うよ。やりたいな、でも気が引けるな、っていうときに、引けてしまう気持ちよりも、やりたい、って気持ちが勝てば、そりゃあ誰だって動き出せるよ。
だから、塚さんが、探偵とかを使わないのは、別に塚さんの行動力とかじゃなくて、まだ、そこまでしたいってほどじゃ、って気持ちってことなんだからさ。どうしても、って気持ちの時にすればいいんじゃないかな」
「主任の行動力も、そういうことですか」
「やりたい、って気持ちが、基本的に人一倍強いんだよ。ぼくは」




