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第二章 デオキシリボ核酸の存在と現実ギャップ問題 13

 十三




「仁楠さん、ありがとうございます。まさか二週間も経たずに、再度いらっしゃってくださるとは」




 三人は再度緑課を訪れていた。浦夢はその訪問自体にいたく喜び、初めて茶菓子が出てきた。奈朱も、二週間前の出会ったときとは打って変わった態度であった。この二週間、改めて江東区の使用可能区画の場所や面積を問い合わせた際に、調査し回答してくれたのは奈朱であった。その変化ぶりにも、浦夢は喜んでいた。




「それで、案というのは」


「これを覚えていますか」




 仁楠が出した名刺は、李今に渡した、重機移植を専門としていた造園会社のものであった。




「ああ、あの。予算オーバーの」


「苦い思い出ですね」




 仁楠と浦夢が苦笑しているところに、李今が口を開いた。




「根っこごと重機で移植をする大工事は、予算にさえ目をつむればメリットはたくさんあります。


 今回江東区で供出できる場所は、海浜エリアに近い。どうしても風が強くて、簡単な植林では、その強風に耐えることができません。時間がかかりすぎるということもあります」


「そうなんですよね。海浜エリア自体には、ちょっとした緑地公園はあるのですが、どうしても住宅地域からは遠い。あのエリアに、広い緑地公園を造ることができれば、それだけで区民の憩いの場になる。だけど、いかんせん風が強い」


「わたしも行ってきました。少し歩くと工業地帯になって、橋を渡ると、緑地公園と工場や倉庫群が共存していました。確かに、江東区が今回供出できるエリアを新たに緑地化できれば、区民の方にも利用しやすいな、と思いました。でも、本当に風が強い」




 奈朱が頷いているあたり、彼女もこの二週間の間に実地に赴いたのだろう、と仁楠も悪い気はしなかった。そしてこの場は、いったん李今と塚にまかせきろう、と思い、自身は資料配布を始めた。




 その資料の表紙にある【移植】の文字を見た浦夢と奈朱は、え、と声をあげた。




「結果的に移植なんですか。いや、その、メリットというか、場に即した案というのは重々承知しているのですが、お恥ずかしい話、まだ予算というのが」




 焦る浦夢を、李今が笑顔で、安心してください、となだめた。




「根株移植、という方法があります」




 聞きなれない言葉に、緑課の二人はポカンとした。防火樹を聞き間違えた塚も当然、初めて聞いたときは、【ネカ部位ショック】とは? と聞き返した。




「根っこごとの移植ではありません。普通、森林の間伐をするとき、根っこからではなく、幹から上を伐採します。メインとしての目的は、日光の照射をより効率的にするところにあるので。そして、基本的に、その際に残る根っこは放置されるのですが、その根株を移植します」




 浦夢は、李今と資料とを交互に見ながら、まだ情報を整理しきれていなかった。




「先ほどの重機移植のメリットとして、即効性があり、風にも強い、と話しました。そのメリットと、予算の低さという、ハイブリッドな提案なんです。


 もちろん根株からになるので、即効性は負けてしまいますが、少なからず、強風に負ける苗木よりははるかに成長した段階です。そして重機移植に比べれば、ずっと低予算で対応可能です」




 李今はもう一つ名刺を出した。




「先ほどの造園会社も、そこまで実績や前例があるわけではありません。根株移植自体、発芽率は、五割は切らないとはいえ、完璧なものではありませんし、まだまだ研究途上ではあります。


 そこで、この財団法人の緑地研究をしている団体にアポをとったところ、実地で試験研究できる場所をちょうど探していた、とのことでした。この法人は大学とも提携していて、ちょうど研究データを実践する場を求めていました。


 緑課、造園会社と組んで、産学官連携という形にすれば、国交省からも予算提供が期待できます。産学官連携による国の援助については我々に実績があるので、交渉はまかせてください」




 さぁ、次はわたしの出番ですよ、と言わんばかりに塚が胸を張った。




「それから、伐採した際の幹から上の木材ですが、これは使用されないまま無駄にされる、ということが往々にあります。これを、江東区ブランドとして、木製のスプーンだとか、使い捨ての食器類を製造して、区内の店舗や、区役所内の食堂で利用することを提案します」




 この塚のアイデアは、ボルドー小学校での増真くんたちの演説を受けたものである。




「木製で使い捨て、というのは、森林保護という言葉のイメージが先行すると敬遠されがちですが、プラごみよりも環境にはいいんですよ。よく、海に漂流したプラごみが何十年も腐敗せず残っている、ってありますよね。


 逆に木材は余剰資源もたくさんあって、むしろ利用していかないといけない。そうした環境問題についても区民に広げることで、理解を深め、新設する緑地公園の完成を一緒に待つこともできると期待できます」




 李今と塚との演説により、浦夢と奈朱は、これで上に掛け合ってみます、と小躍りした。ボルドー小学校の一件で参っていた仁楠にとっても、久しぶりの、大型案件の成約につながりそうで、隠すことなくガッツポーズをした。




 後日譚であるが、案件が大きくなったので、緑課にも担当が二人増えた。




「緑課なので、増えた、より、芽吹いた、という方が、詩的ですよね」




 浦夢が喜ぶ様子こそ、仁楠が一番見たかったものだ。

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