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第二章 デオキシリボ核酸の存在と現実ギャップ問題 8




 三人は区役所を後にした。終わり際、仁楠から




「後日また連絡します。我々としても、回答をお持ちします」




 と話したことで浦夢は小躍りして喜んだ。奈朱も、緑課の仕事が進むことなんて有り得るんだなぁ、とこころなしか感動しているようであった。これまでの浦夢のパートナーは、浦夢の熱意に対して拒否反応を示していたが、奈朱については、熱を帯びて話す浦夢にそこまで悪い気持ちは抱いていないようであった。




 ちょっと調べたんですけど、と、帰りの車内で李今がタブレットを読み上げ始めた。




「単純に緑地化するだけなら、この、森ごと移植する、っていうのでいいんじゃないですか」




 運転する仁楠は、李今の開いているウェブサイトの画面は見ていないが、話す内容は大体予想できた。




「重機を使って、根っこごと木を移植する、とかでしょう」


「それです、それです。短期でなら、これが一番じゃないですか」


「李今さんすごいです。これで解決ですね」


「意外と、ずっと話し合っている人たちより、しがらみがない分、いいアイデアが出たりするものなんですかね」




 助手席から塚が振り返り過剰に褒め、李今は少し誇ったが、だがすぐに自身の過ちに気づいた。まだまだ若く、調子づきやすいが、このあたりの聡さは十分に備えた若者であった。




「って、仁楠さん、ご存知ではあったんですね」


「うん。初回会議で話題になった」




 バックミラー越しに、李今の顔が少し赤くなるのが見えて、仁楠はすぐフォローをした。




「いや、会議録にすべて目を通しておいて、なんてぼくは言ってないしね。むしろ簡潔にそれをまとめた資料を用意してないぼくの引継ぎ不足の結果だよ」


「言われる前にしておくべきでした」




 視線を落とした李今は、以後、引き継ぐ継続案件については、会議録にざっと目を通すようになる。




「李今くんの言う、その、第三者や外部の思いつく突飛なアイデアが事態を解決させる、というのは、ちょっとぼくは解釈が違うかな。


 今回のケースはろくに話し合ってないからぼくの解釈は適切じゃないんだけど。専門家同士が長い期間をかけて議論を重ねていれば、案やアイデアなんていうのは、数えきれないほどの物量が挙がってくる。そしてそれらは、その専門家同士の、予算や都合によって立ち消えていく。専門知識のない外部から出るアイデアなんていうのは、今は机上にない、っていうだけで、過去には必ず一度は出た案なんだよ」




 李今はタブレットで顔を覆うように恥じらった。




「返す言葉もありません」


「いや、責めているとかじゃないんだ。外部や新しい視点からの意見自体は必要だと、ぼくも思うよ。


 でもできれば、なんでそれが良いと思ったか、っていうところを強調して欲しいんだ。


 しがらみがない方がいい、って言った李今くんは正しいんだ。関係する人たちは、つい、利害とか予算とかに縛られて、思いつくけど動けない、踏ん切りがつかない、っていう状況に陥っていることがままあるからね。そこに、さっきみたいに、スピードを重視するなら重機移植ですよね、とか言ってくれれば、ちょっとした後押しになる。場合によっては、また議論の机上に戻ってくることもある。実際にその施策をしてからいろんな反響があるよりも、その前に感想や意見をもらえること自体はものすごく役立つからね」




 李今は、まばたきもうなずくことも忘れて、仁楠の話をずっと聞き入っていた。逆に塚が、なるほど、とか、さすがですね、と相づちを打っていた。

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