第二章 デオキシリボ核酸の存在と現実ギャップ問題 7
七
話はその定期ミーティングに戻る。
「今回は、新しく配属された奈朱の、そこまでして緑地化は必要なのか、という一言から、改めてその重要性を確認したいと思います。原点回帰することで、見えてくるものがあるはずです」
仁楠は、この一件で結果を出さなくては、と必死だったので、身を乗り出すようにして聞き入った。李今と塚もそれにつられる形となった。
まだ少し声に幼さが残るが、タン、タンと切るようにテンポよく話す奈朱が、緑課の起こりを改めて説明し始めた。
「ここ江東区は、都心へのアクセス、いや、ほとんど都心とエリアとしても被っているにも関わらず、人口流入の傾向が、二十三区で比べるとどうしても弱かった。
そこにきて、区民アンケートで、緑がないのが不満、と上がりました。確かに、マンションが建っても、目に入る緑といえばせいぜい街路樹程度。そこで、この緑課はスタートしました」
詠唱のように何度も聞いた話だったので、仁楠も、どう相づちを打てばスムーズに進むか心得ていた。
「でも、部署が設立してすぐに、予算カットがありましたよね」
「ええ。緑地化のメリットの一つである、山崩れや土砂崩れの一定の防止機能について、この江東区にはメリットにならないのでは、という指摘が上の方でありました。つまり、かけるコストに対するリターンが少ないのでは、と判断ですね。
結果的に、大規模な緑地化は不要、目に入る程度の緑があればいい、と、予算は大幅にカットされました。
しかし今期は、来期の予算アップに向けて動いています」
そこから引き継ぐように、浦夢が身を乗り出してきた。
「塚さん、突然で申し訳ありませんが、防火樹、という言葉をご存知でしょうか」
「【某果樹】、ですか」
塚の脳内では、ガチャガチャのシークレットのような果物が小躍りしていた。
「イントネーションは、防火樹です。耐火樹とも言います。火を防ぐ、耐える、という漢字を書きます。
街路樹にイチョウが多いのはイメージができるでしょう。理由の一つに、イチョウがその防火樹にあたるというものがあります。樹皮が厚く含水率もあり、いざ火災が生じた際に、延焼を防ぐ役割があります」
「木があると燃料になっちゃうと思いました」
「もちろん、大火災となれば話は変わってくるのですが、実際に起きる火事の規模の割合を考えれば、防火の役に立つ回数の方が高くなります。また、これらの木は、そうした後も再生のスピードが早い」
「じゃあ、街づくりとしても、街路樹としてその防火樹があるのは大事なんですね」
そうなんです! と浦夢は机をたたいて立ち上がった。ハンブルク研究所としても、ここまで興味をもって臨んだことは初回以来だったので、浦夢もテンションが上がっていた。




