043
ウェディングドレスを着た蓮の顔が、マートに変わった。
幼い女の顔つきをしたマートは、ウェディングドレスを着ていた。
顔も真っ白で、冷めた目をして俺を見下ろしていた。
教会のホログラムの中にも、マートは簡単に介入してしまう。
マートはやはり、世界の神なのだ。
どこにも目があり、どこにも耳があった。
圧倒的で、絶対的な力に再認識させられてしまう。
「マート、どうして?」
「あなたは、蓮を殺した。その事実は、永遠に変わらない。
『鍵谷 蓮』は、あなたのことを好きで結婚したがっていたほど好きだった。
だけど、なぜお前は殺した?」
「命じたのは、お前だろう」
「そう、あなたが消したのは私マートの指示。レッドナンバーにしたのも私。
でも手を下したのは修成、あなたよ」
マートの言葉に、間違いが無い。
神であるマートは絶対に間違えない。
正しいけど、正しいが故に許せない部分もあった。
ブラックナンバーの俺は、レッドナンバーになった蓮を殺した。
アメミットの力を用いて、俺が殺した事実は変わらない。
蓮は俺の事が好きで、結婚も考えた相手を俺は殺した。その事実は、二度と覆らない。
「お前に逆らえば、この世界にはいられない」
「そうだよ、君は分かっているよね。碑文谷 修成。
でもなんで蓮は、最後まで私に教えてくれなかったの?
蓮はなんで、最後に私を一番好きになってくれなかったの?」
「それは蓮にとって、一番の『好き』は俺だからだよ」
結論に辿り着いた俺は今なら、はっきり言えた。
俺は蓮が好きで、恋が俺を好きだったという事。
蓮がどうして、俺を選んだのか。
蓮がどうして、俺を好きになったのか。
蓮がどうして、マートに従わなかったのか。
その全てを理解した俺は、マートにしっかり向き合えた。
「やっぱり、そうなんだ」
「俺は蓮が好きだ。今もそれは、絶対に変わらない」
「でも死んだよ、この世界に彼女はいない」
「それでも、俺の『好き』は絶対に変わらない」
「また、『好き』を言うのね」
マートは、冷めた顔で俺を見ていた。
俺は胸を張って、マートにはっきりと言えた。
「好きなモノは、どうしても好きなんだ。だから仕方が無い。
それが俺の蓮に対する気持ちで、蓮が俺に対する気持ちでもある」
「蓮は私を、一番愛してくれないくせに」
その瞬間、マートの顔は蓮に戻っていた。
この場所にあるのは、蓮が残した遺書代わりのホログラム。
彼女の秘めた想いが、迷う俺への道標になっていた。
ホログラムであっても、俺は蓮と向き合う。
かつて大好きだった、彼女の蓮へ。
ここで向き合えなければ、俺の今までの蓮への愛情が否定されたような気がしたから。
「蓮を、今でも俺は好きだ。
あのとき愛していることに臆病だった愚かな俺を、許してくれ」
「許さないと言ったら?」
「そのときは、どんな罰をも受けよう。
臆病な俺は、蓮と同じ罰を受けなければ対等に話すことも出来ないのだから」
「ダメよ!」俺と蓮の会話の中に、割り込んだ一人の少女がいた。
それは恋だ。白いブレザー姿の恋の手が、俺に伸びてきた。
隣の恋が、俺の手を引いた。
そのまま、手を引いて俺を抱き寄せた。
俺がいたその場には、ウェディングドレスのマートの上からドローンが静かに飛んでいた。
そのドローンが、口を俺に向けていた。
黒い光線を、俺に目がけて放ちながら。




