042
地下にはあり得ないモノがあった。それは、教会だ。
蓮の家の地下になぜ、教会があるのか分からない。
俺はこの家に住んでいたけど、この地下は初めて来た。
だけど俺が見ているこの教会は、どこかで見た事のある教会だった。
真っ白な、壁に背後に大きなパイプオルガン。
さらには聖母の像と、十字架。ステンドグラスの屋根と、地下とは思えないほど光が差し込む部屋だ。
地下にある見覚えのある教会を、俺は恋とじっくり見ていた。
「なにここ?」
「俺も初めて見た」
「凄いわね。地下に、こんな立派な教会があるとは……」
「まるで蓮の心を、映しているのか?」
震えた顔で俺は、教会をじっと見ていた。
厳かな教会は、薄暗くても神秘な場所。
「あなたの彼女は、マートのモデルなのよね」
「そう、恋と同じだ。鍵谷 蓮は、マートの七人のモデルの一人。
世界の神マートの中にある感情は、多少なりとも蓮の影響を受けている。
しかも蓮は7人の中で、最後にモデリングされた。最も新しい情報だと、情報をもらっている」
「蓮の家に、マートの『好き』に繋がる何かがあるのね?」
「いい判断ね、修成。
マートの『好き』は、私の『好き』でもあるから」
祭壇の前に、一人の女が立っていた。
ウェディングドレス姿で佇む女を見て、俺は思わず駆け寄った。
「蓮っ!」
それは、俺の彼女の蓮だ。
茶色の髪に、真っ赤な花のリボン。
純白のウェディングドレスを着て、両手にはブーケを持っていた。
まるでそれは、彼女が思い描いた花嫁の姿だ。
だけど、すぐに俺は分かっていた。
「ようやく来てくれたのね、修成」
「ホログラムか?」
「そう、鍵谷 蓮はこの世にいない。これは、私の遺書代わりよ。
あなたがいつかここを訪れたときに、私はあなたに見せようとしたの。私の覚悟を」
「蓮の覚悟?」
「私はあなたと、結婚がしたかった。でも、それは叶わなかった」
「ああ、覚えているよ。
俺は、蓮と結婚しなかった。出来なかったんじゃ無くて、俺はしなかった」
落ち込んだ顔で、俺はそれでも目の前の蓮を見ていた。
「どうして、あなたは私に告白しなかったの?」
蓮の声が俺に、はっきりと刺さった。
彼女は死んでいて、これは幻だ。
目の前にいる蓮は、いつも通りの微笑みで俺をじっと見ていた。
一番綺麗な姿で、俺を見守っていた。
「俺は蓮と一緒にいる自信が、どうしても無かった。
蓮をいつまでも好きでいられる自信が、どうしても無かった。
ずっと俺は、蓮を好きでいられる自信が無かった。
あのときは、俺もどうかしていたと思う。
今では、こんなに失って……こんなに辛いと思えるのに」
喋りながら俺は、泣き崩れた。
今までの事を、懺悔するかのように蓮の前で泣いていた。
体を震わせて泣いている俺を、ウェディングドレスの蓮は立ったまま聞いていた。
「失って気づいたのね、修成は」
「俺は気づいたよ。俺にとって、『鍵谷 蓮』がどれほど大事だったのかを。
俺にとって、蓮と一緒に過ごした日常がどれほどかけがえのないものだったのかを」
「それで、あなたは答えが出たの?」
「ああ、俺はやっぱり蓮が好きだ。
俺とこの場で結婚してくれ……とは言えないけど、叶うなら蓮ともう一度やり直したい」
「そうね。あなたは、そう言うと思ったわ。
私もあなたが好きだから。でもね、遅いの。
何もかもが遅くて、あなたは再び間違いを犯す。
人間は、大事なところで失敗をする生き物だから」
「蓮?」
蓮の様子が、おかしい。
ウェディングドレス姿の蓮が、バグったように電気が流れた。
蓮のホログラムが、揺らめいていた。
「でも、あなたが殺したの。
あなたが殺した……私『鍵谷 蓮』を殺したのはあなたよ」
その声は、バクった蓮の姿から聞こえたモノじゃ無い。
一瞬、蓮の顔からチラリと映し出された一人の少女の顔が見えた。
それは蓮とよく似たマートの抑揚の無い声だと、俺ははっきり分かった。




