034
地下には、俺の想像を遥かに超えていたものがあった。
そこは、たくさんの機械が置かれていた。
モニターに、大きなカプセル。コールドスリープ用のカプセルだ。
他には食料庫と、タブレット。カプセルのそばには、いろんなモノが置かれていた。
だけど全てが、綺麗に整頓されていた。これも、恋の潔癖症な性格の所以だろう。
「こんな場所で、一人で暮らしていたのか」
「最初の一日だけ。起きたときは、よくわかんなかったし」
「コールドスリープをここでしていても、わかんないよな」
でもここは、人工島アールだ。
三、四十年前に出来た比較的新しい人工島。
百年もの間、ここで恋が眠っていたのはあり得ない。
どこかで、この空間ごと移送されたのだろう。
「おそらく一度移動したと思う、私が寝た場所は……セントポールだったし」
「また、聞き慣れない場所が出てきたな」
「百年前にあったとある都市の名前よ。あたしはここで眠ったのを覚えているわ」
恋は自分のコールドスリープカプセルを見ながら、話してくれた。
百年眠ると言うことは、どういう体験だろう。
36年しか生きていない俺には、想像も出来ない。
知り合いは、どれぐらい生き残っているか分からない。
世界は、どう変化しているのか分からない。
それは期待よりも、不安の方が強いのかもしれない。
恋はそんな狂った世界で、今も生きていた。
自分の体をモデルにした、AIが支配する世界で。
「なるほど、恋も……マートの一部だもんな」
「そうね、あたしはそうなっているわ。
あたしが生きていた過去の時代……百年前は普通の世界だった。
今の未来のようにスマホがあり、モニターもあり、AIの研究も進んでいた。
あたしは、浦安から東京の学校に通う女子中学生。
電車で東京の私立の中学に通っていたわ。でも、あたしは満たされなかった」
「どうして?」
「パパは研究熱心な打越教授で、ママはパパの研究で殺された。
家には祖母が住んでいたけど、あたしは普通の女子中学生だった。
何も無い、普通の女子中学生。誇れる特技も、勉強も得意じゃない。
そのくせ、クラスでは少し浮いていて友達も少ない」
恋は、近くのテーブルにしゃがみ込んだ。
そのまま恋は、近くに置いてあった昔の薬袋を取り出した。
「唯一、他の人と違うのは感染症にかかったことぐらい。
そして、あたしは他の人と違って肺炎が進んでいた。
あの時代の薬では、どうしても治らないと分かっていた。
だから、あたしは未来に向けて眠ることにした」
「そうか、恋の事がよく分かってきた」
「マートを、あなたは本当に救ってくれるの?」
「救わないといけない。恋にとっても、マートは大事なAIなんだろう」
「うん……あたしの一部だから」
恋には、はっきりとした自覚があった。
自分をモデルにして、マートが生まれているその自覚が。
マートの思考の一部は、自分の考えと似ていることも。
「そうだな。マートを形成する7人のモデルで生き残っているのは、恋だけだから」
「おそらく、そのためにあたしはこの時代に起きた。
マートを救うヒントを、授けるために.修成っ!」
恋が、いきなり叫んだ。
叫んで刺したのは、俺の背後だ。
指さした場所は、後ろにエレベーター。
そこには、一機の白いドローンが姿を見せていた。




