030
夜、疲れた俺は家に戻っていた。
出迎えたのは綺麗になった俺の部屋と、『打越 恋』がエプロン姿で出迎えてくれた。
彼女の掃除によって綺麗になったリビングのソファーに、俺は疲れた顔で座っていた。
そのまま、俺はスマホを見ながら話をしていた。
「ねえ、パパの仕事はどうだったの?」
「ああ、失敗した。マートの記憶を消す……それが打越教授の考えだった」
「そう。パパは、本気で一度AIを完全に廃棄する気ね」
恋は、対面のソファーに座っていた。
「感染症の薬は、効いているのか?」
「うん、体の調子がとってもいいモノ。元気が有り余っているわ」
恋はかわいく、腕を振り回していた。
そんな恋に、俺はスマホを見ていた。
「マートの暴走が、続いている。今もこうして、ニュースになっているな」
「街の中に、ドローンが出回っている。マートの暴走が原因で」
「ああ、だけど俺は何も出来なかった。
蓮のこともあるし、AIは蓮の一部でもあるから。
そういえば、お前もマートのモデルだったんだな。打越 恋」
「昔、あたしを使って一つの実験を行なった。
あたしの感情を抜き取り、AIを作る実験」
「やはり、知っていたのか?」
「最初は知らなかったけど、ようやく思い出したの。
パパと会って……眠って夢を見て」
恋もまた、打越教授に利用されたのだろう。
マートの一部として恋は存在し、彼女は長い間眠らされた。
ならば、この時代に起きた恋には何か意味でもあるのだろうか。
マートとつながりのある恋は、マートの求める『好き』の意味を知っているのだろうか。
「なあ、恋」
「何?」
「恋に取って、好きはどんな意味だ?」
「え?」恋は俺の言葉を聞いて、じっと俺を見ていた。
そして、視線を逸らして照れた顔を見せていた。
「あたしには、好きな人はいなかったから」
「なるほど。マートのこの感情は、恋のモノじゃ無いのか」
「なんか、凄い不満だけど」
恋は、拗ねた顔を見せた。
それでも、俺はスマホを見ながら難しい顔を見せていた。
「7人のモデルは、他にどんな人がいるんだ?」
「あたしは、あたししか知らないけど……あんたの恋人もそうなんでしょ」
「まあ、そうだな」
「だったら、あなたは彼女の願いを叶えてあげないとね」
恋はなぜか、かわいらしく俺にウィンクをして見せた。
その仕草は、俺の彼女の蓮に似ていない仕草だった。




