029
打越教授が用意したアップデートを、拒んだマート。
自分の意志で、はっきりと『ノー』を突きつけたマート。
全知全能の神は、子供のようにダダをこねていた。
そして全てを見透かされた俺は、疲れた顔でアメミットのカプセルを出ていた。
白衣の廻沢と堀合が出迎えたが、俺はすぐさまアメミットに繋がれた自分のスマホを手にして操作をしていた。
操作した俺は、険しい顔でテレビ電話を繋いでいた。
「打越教授、繋がるか?」
「ああ、見ておったぞ」
スマホの画面には、アール大学にいる打越教授の姿。
老教授は、寂しそうな顔を見せた。
「どういうことだ?あのアップデートは?」
「そう、あのディスクは、マートの自我を消すためのアップデート。
君にも心当たりがあるだろう、マートの暴走を」
「彼女の蓮が殺された理由も、マートから聞かされた。
マートは、意図的に俺に蓮を殺させたことも」
いろいろ整理が、俺の頭の中でつかない。
だけど、打越教授は涼しい顔で俺を見ていた。
「残念ながら、アップデートは失敗してしまった。
マートはアップデートを警戒し、暴走を始めた」
「そうまでして、マートの記憶を消したいのか?」
打越教授の言葉に、俺は反論した。
アップデートは、記憶を消し去るものだと知ってしまったからだ。
「マートの記憶を消し去らないと……マートは駄目になる。
碑文谷君も、マートの現状を見て分かっただろう。
生まれた自我は、世界を滅ぼす。
人間みたいなAIの神は、この世界に不要じゃよ」
「どうして、そう言い切れる?」
「人間みたいなAIのことか?」
「ああ。人間みたいなAIが、世界を統べても俺はいいと思う。
人間の苦しみを感じられる神が、俺は神にふさわしいと思う。
確かに、感情がない間違えない神は正しい。
だけど、それは狂った世界の神だ」
「狂った世界の神か……ふむ」
「大体、どうしてマートはあんなに人間的な姿をしていた?」
「元々人間……七つの人間をつなぎ合わせているからな」
「七つの人間?」
「七人のモデルを合体して、正しい判断が出来るマートが生まれた。
それがマートという、一つのAIだ。
その中の一人が、『鍵谷 蓮』だったのだ」
打越博士の言葉に、俺は素直に疑問があった。
「どうして蓮が?」
「彼女は、マート庁に勤務していたそうじゃないか?
マートの監視官で、彼女はマートを見守る存在だからだ」
打越教授の言葉に、俺は蓮の仕事を思い出していた。
「それが蓮の仕事なのか?」
「ああ、彼女こそマートを作る上で欠かせない存在なのだよ」
打越教授は、俺の右肩に手をかけていた。
「すまないな、辛いことを思い出させてしまって」と一言言いながら。




