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数字の神が支配する世界  作者: 葉月 優奈
二話:神を作りし若人
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鍵谷 蓮。それは俺がかつて愛した女性の名前。

俺が幸せに出来なかった、女性の名前。


そして、俺が殺した女性の名前だ。

去年のクリスマスのあの日から、俺は忘れることが無かった。

十年以上付き合い、結婚も考えたが結婚に踏み切れず……殺した女性。

人工島アールの中央、セントラルタワーの最上階でまさか彼女の姿を見るなど思いもよらなかった。


「蓮……どうして?」

「彼女が、私を構成する部品の一つだからよ。鍵谷 蓮は」

「どういう意味だ?」

「そのままの意味。彼女は情報を知りすぎて、レッドナンバーにした」

「お前……」右手を強く握り、歯を食いしばった。

怒りがこみ上げてきて、それでも抑えようと必死に耐えていた。

なにより、コイツからはまだ聞かないといけない事があまりにもたくさんあった。


「鍵谷 蓮を、知っているのか?」

「知っている。彼女の記憶から、『好き』という単語を知った。

彼女は常に、好きを滲ませていた。彼女には好きな人がいたのも、知っている」

「ああ、そうだよ。蓮には、好きな奴がいた」

「その感情を、私には向けてくれなかった。

彼女はずっと私の調査をしてくれたのに、その感情は無かった」

「確かに、蓮はマート庁で働いていた。

AIの経過観察をしている仕事内容だったのを、俺は聞いていた」

「蓮はよく言ってくれた。マートが好きだって。

今の仕事が好きで、ここにいると」

いきなり、ためらいも無く自分が好きだという宣言。


「だったら、それが……」

「彼女の好きは別にある、彼氏がいた」

その言葉に、俺は完全に照れていた。


「なんで、顔が赤い?病気か?」

「アバターだ、そんなはずは……あるのか」

俺が感じた感覚が、自然とアバターの外に出るのか。

アメミットのカプセル内で、確かに俺はゴーグルで感情が読まれているのかもしれない。

それで、俺のアバターが照れている顔になったのか。


「なあ蓮は、なんで殺されなければならなかった?」

「情報を知りすぎたから」

「情報って何だ?」

「マートの機密事項。彼女は、絶対に踏み込んでいけない点に踏み込んだ。

触れたら行けない場所は、人類の繁栄にとって不要な情報」

「黙秘の情報という訳か。ふざけるな!」

俺はとうとう、怒りを顔に出した。

鋭い目で、目の前のマートンを睨んでいた。


「お前のせいで、蓮は死んだ。

殺したのは俺だけど、殺させたのはお前だ。

しかも、その理由が自分の情報を守るためだと?ふざけるんじゃない!」

「怒っているのか?」

「当たり前だ。そのせいで蓮は……」

俺は、その場に崩れ落ちた。

怒りを見せても、俺にはどうすることも出来ない。


マートンをここで殴れば、全てが終わりなのだろうか。

それで、蓮は再び俺の前に姿を見せてくれるのだろうか。

そんなことはないし、俺の心は満たされないことは分かっていた。


「くそ、なんだよ!なんて、胸くそ悪いAIだ」

「そう思う?」

「ああ、お前は許せないが……俺は疲れた」

「ねえ、好きを教えて」

「は?まだ言うのか?」

無表情でマートンが聞いてきて、俺は背中を向けた。

怒りも、悲しみも、今の俺は抱えきれない。

はち切れて、どうでも良く思えてきた。


「俺はもう帰る」

「教えてくれないの、『好き』の意味を?」

「自分で考えろ!」

吐き捨てるように言い放って、俺はそのままログアウトをした。

マートンは、その場に一人取り残されていた。

完全にログアウトするまで、数秒間俺はこの世界に意識があった。


「やっぱり、教えてくれないのね。『好き』の意味を」

幼い女の子の姿に戻ったマートンの体に、ノイズのようなモノが見えていた。


間もなくVR空間で意識を失うと……数秒間の闇の後にアメミットの透明なカプセルが見えた。

ゴーグルを外して、俺は呼吸を見だしていた。

そばには、モニターを見ている廻沢と堀合。


「大丈夫?なんか、言われて……」

「悪い、俺は少し休みたい」疲れた顔で、カプセルから得ていった。

それでもモニターをじっと見上げる堀合が、怯えていた。


「廻沢先輩」

「どうしたの?」

「マートンの様子が……おかしいです」

モニターに見えるのは、セントラルタワーのマートンの映像。

明らかに、マートンが乱れているのが見えた。



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