022
ボロボロの白衣を着た、しわだらけの老人。
彼は未来でも、かなり年を取っていた。
老化を遅らせる人工島アールの世界で、年を取った人間は珍しい。
しわだらけの老人と、スキンヘッドの白衣の男はゆっくりこちらに歩いてきた。
恋は、やはり老人に何かを感じて鋭い視線を送っていた。
「アンタのせいで……ママは死んだのよ」
険しい顔で、恋は怒っていた。
それを、落ち着いた顔で老人は聞いていた。
「すまない、まだ怒っているんだんな」
「当たり前よ。
なんであの実験でママが死んで……あたしが眠らないといけなかったの?」
「恋よ、わしは今でも後悔している。妻を殺したことは、わしのミスだ。
だが、そんなミスを二度と繰り返さないようにわしはさらに知恵をつけて……」
「また、研究ばかり。なんであんたは、分からないの?」
恋の言葉に、老人は穏やかな目で娘の顔を見ていた。
そのまま、老人は近くにある棚を見つけた。
「謝っても許されることでは無いことも、幼いお前に辛い思いをさせたことも理解している。
だが、わしはそれでもお前を忘れたときは片時もない。妻も同じだ」
老人の教授は、ゼリーパックに入った薬を取り出した。
セリーパックを、恋に渡す。
「この薬があれば、百年前の感染症は治る。
最も百年前の感染症は、消毒されたアールの中では菌が生きることは出来ないが」
「あなたは……」
「飲んでくれ!そして、恋が元気でいて欲しい」
老人の言葉に、恋はゼリーパックのキャップを外した。
外して、そのまま薬を飲んでいる恋。
「打越教授、初めましてブラックナンバーの碑文谷 修成です。
恋は、俺が倉庫で保護をして……クイックナンバーを与えました」
「そうか、わしの名前は『打越 士郎』。アール大学の研究室の古参の教授じゃ」
「そうだ、打越教授こそ、神だ。マートを生み出し創造主なのだ」
なぜか堀合が叫び、黒パーカーの男が堀合の手を無理矢理引っ張った。
「教授、後はどーぞ」
黒パーカーの男が、気を利かせて堀合を連れて行く。
「打越教授は、かねてよりAIマート誕生の研究に携わっていたと聞いております」
「確かに昔、アメリカの大学でマートを研究した。
実用的なAIでは無かったが、第三次世界大戦でAIマートだけが奇跡的に生き残った。
マートは、いわば残り物じゃよ。人類は、運が良かっただけ。
それが、今アールの中で神として存在している。
ところで、君はどうして恋を保護してくれたかな?」
「はい、ブラックナンバーの任務中に彼女を発見しました。
UNKNOWNの彼女を、町外れの倉庫で見つけて保護しました」
「そうか、まさかブラックナンバーの君に娘が見つけられるとはね」
打越教授は、首を横に振っていた。
スキンヘッドの頭と、渋い老人の顔はどこか貫禄が漂っていた。
「君と少し話がしたい。恋……近くの椅子で休んでいなさい」
「待って、あたしはまだ……」
だけど、恋の瞼が重くて体がフラフラしていた。
倒れそうな恋を、俺が腕で支えていた。
「恋、大丈夫か?」
「少し眠いだけ」
「眠気がある薬だからな。
次に目を覚ませば、彼女の中の病原菌が完全に消える」
俺はフラフラの恋を、近くの椅子に座らせた。
そのまま、恋は瞼を完全に閉じて眠りだしていた。
「あんたは、娘と話をしたいんじゃ無いのか?」
「おそらく、恋はわしをかなり恨んでいる。
正直な話、わしは恋の死体と対面すると思っていたからな」
「死体?」
「さて、では君と話を続けよう。ブラックナンバーの碑文谷君」
打越教授は俺を指さすと、別の助手が彼女のそばに椅子を運んだ。
用意された椅子に座り、打越教授は足を組んで俺を見上げていた。




