019
(SYUUSEI‘S EYES)
翌朝、俺は早速カーゴの中にいた。
朝のアールの市街地を抜けて、カーゴを進めた。
隣には、恋も一緒だ。今日は、出会ったときの白いブレザーと赤いスカートだ。
少し目立つけど、恋はこの制服姿でカーゴの助手席で俺の方を見ていた。
「今日は、アール大学に向かう」
「アール大学?」
「お前の親父さんが、実は生きているみたいだ」
昨日、開発部の堀合とメッセージでやりとりをした。
打越教授は、今も生きていてアール大学の教授をしていた。その情報を、知り合いから得ていた。
教授の研究室も、堀合に教わったのですぐに向かうことにした。
「そう、百年も生きているのね」
「お前を、コールドスリープさせたのは打越教授か?」
「ええ、間違いないわ」
助手席の恋は冷静な顔で、言い切っていた。
「おそらく、コールドスリープをしたままあたしをここに運んだ。
あの倉庫の地下に、あたしを置いていった」
「いくつか話が、見えてきたな。後は教授が、お前をどうするかだ」
「知らないけど……アイツは好きじゃないし」
「恋?」苦々しい顔になった恋に、俺は声をかけた。
「アイツ、家族を犠牲にして研究に明け暮れていたから。
あたしは、知っているの。アイツは、いつも家に帰らないし……ずっと研究所にこもっていた。
研究が大事で……研究バカなのよ」
「随分と、嫌っているな」
「うん」恋は否定しなかった。
父親に対して、ネガティブな印象をかなり持っている恋。
それでも、俺は前を向いていた。
「でも、父はお前の感染症のために……わざわざコールドスリープをさせたのだろ」
「違うわ、ただの実験だけよ。実の娘だって、単なる実験材料に過ぎないわ。
ママもそうだったし、パパの実験で殺されたから」
恋は、悔しそうな顔を見せた。
今にも泣き出しそうな顔で、それでも強い顔で前を向いていた。
「実験?」
「ええ。ママを使って、ある実験を行なったのよ」
「どんな実験だ?」
「AIが、人を識別する実験。
モニターがあって、犯罪者を識別するAIで異常者を探知するシステム。
だけど、あのとき誤作動が起きて……同時に開発していた銃弾が放たれてママが死んだ。
精神異常者と認知されて、殺されてしまったの」
「そうか……」なんだか、俺の状況と少し似ていた。
身近な人が、AIに判定されて殺されてしまう。
恋にとって母親は大事な人であり、父は忌むべき存在だ。
「じゃあ、会うのはやめるか?」
「ううん、会う。百年眠るあたしにとって、知り合いはアイツしかいないから」
恋はそれでも前向きだ。そんな恋を、俺は羨ましく思えた。
助手席に座っていた恋は、俺の方を向いていた。
「ねえ、修成」
「なんだ?」
「このリボン、あなたの蓮さんもつけていたんでしょ」
「え?」俺は驚いた。
恋の頭には、確かに赤い二つのリボンが見えていた。
そのリボンは、蓮と同じリボンで茶色の髪に似合っていた。
「赤いミニリボンはね、あたしのママがつけていたんだ。
これは、ママの形見なんだ」
「そうか……恋は強いな」
「強くないわよ、強くないから。
だから……少しあなたに、甘えてもいい?」
恋は上目遣いで、俺の事をじっと見ていた。
四つん這いになって、じっと俺を見ている。
少女である恋も、妖艶に見えてしまう。
「ああ、甘えてもいい。お前は、まだ甘えられる年齢だ」
「そういう年齢とかじゃないし、あたしは2008年生まれらからそもそも114才だし」
「着いたぞ」
そんな俺の目の前には、茶色の大きな建物が見えた。
大きな門構えには『アール大学』と書かれた看板が、しっかりと見えていた。




