018
(LEN‘S EYES)
あたしは、恥ずかしそうにしゃがんでいた。
修成の姉に対し、あたしは叫んでしまう。
しかも、最悪のタイミングで修成はいなくなるし。
あたしは、元気なくその場のカーペットの上にしゃがんでいた。
大きなゆりかごに座る女は、あたしを見上げていた。
「あははっ、面白いことを言うわね。あなたも」
「そ、そうなか?」
豪快に笑う大人の女性に、あたしは顔を上げて見ていた。
「でも、あんたのその感性は間違っていないわ。
大人になったら、考えたり抗ったりすることをやめてしまうから。
そうか、そうか……やっぱり世界は狂っているか。
過去からやってきたあなたにとって、今のこの世界がそう見えるのね」
「うん、狂っています。
人がいきなりドローンで消されたり……好きな人と結婚できなかったり。
それを、AIが選んでいるとか……おかしいです」
「ねえ、恋ちゃん」
「なんですか?」
「百年前の過去に、好きな人がいたの?」
修成の姉は、あたしの話に身を乗り出して聞いてきた。
「あの時代では、いなかったな~。
だから百年眠る事を、迷うこと無く選べたと思う。
好きな人や、大事に思う人がいれば……そんな選択は簡単には出来ない」
「まあ、そうね」
「お姉さんは、好きな人がいるの?」
「私?いるわよ。ブラックナンバーで、修成の同僚の『柚木 将也』君。
ほら、デパートにいたあのドローンを操っていた人よ」
いきなり、固有名詞を出してきた姉。
姉は口元に笑みを浮かべて、堂々と言っていた。
「あのドローンの中に、人がいるんですか?」
「うん、ドローンを操っているのはブラックナンバーの『粛正官』。
ユズ君の他に、弟の修成もそうよ」
「あの修成が?」あたしは、すぐさま修成の顔を思い浮かべた。
「そう、修成。彼も多くのレッドナンバーを殺しているの。
レッドナンバーは、精神異常や犯罪予備軍、人類の進歩にとって危険な存在」
「あの人殺しを……修成がやっていたんだ」
昼間のデパートで見た、人が消える光景。
あたしを人質にした背の高い男は、ドローンの光線を受けて消えて無くなった。
「修成ねぇ……」
「え、どうしました?」
「あなた、修成とは仲がいいのね」
いきなり姉が、あたしの名前呼びを指摘した。
指摘されたあたしは、思わず冷静に考えて少し顔が赤くなった。
「いや、他に呼び方知らないし。修成は……修成だし」
「恋ちゃんは、修成の事が好きだったりする?」
「い、いえ。嫌い……です。
階段を無理矢理登らせて……後はぶっきらぼうで、すぐどっか行くし」
「修成は、昔好きな人がいたの」
「うん。あたしと同じ名前の『レン』」
「あれは、去年のクリスマスイブの日だったわね。
彼女の蓮は、いきなりレッドナンバーになった。
そこでブラックナンバーの修成が……蓮を殺したのよ」
「殺した?どうして修成が?」
「それが、ブラックナンバーの仕事だからよ」
顔に影ができた姉は、はっきり言い放っていた。
だけど、あたしは右手をグッと強く握っていた。
「おかしいですよ、二人は愛していたんでしょ。修成は?」
「愛していたわ。だから、修成はとても苦しんだ。
今でも蓮の亡霊を振り払おうと、必死に生き続けているの」
「そうだったんですか……」
初めて聞いた、修成の過去の顔。知らない修成の歴史。
ずっと隣にいた修成の事を知ったあたしは、一つだけ空いているソファーの席を見ていた。
「恋ちゃん、修成の事をよろしくね。彼の心は今、空っぽだから」
「はい、分かりました」
姉は、空になったジョッキを見てあたしに優しく言ってきた。
そんな中だった、家のドアが突然開いた。
「戻ってきたわね、修成」
ドアから廊下を抜けて、修成がリビングに再び姿を見せていた。




