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117話 空腹と女子会

◇◇◇


朝食を取りに食堂に向かうウェッジ。

「おはようございます、ウェッジさん」

どうやら今朝の一番乗りはクロイツだったようだ。

彼は部外者であるウェッジたちにも丁寧な態度を崩さない。

ウェッジはクロイツに挨拶を返すと、空いている席に腰掛けた。

テーブルの上には朝食用に薄く切られたバケットが並んでいた。

適当に数枚を手に取り、皿に盛る。

果実のジャムを塗って口に運ぼうとしたところで、入り口の人影に気付いた。

「あぁ、レイシア。おはようございます」

「ふあぁ~い……」

まだ目が開き切っていないレイシアが生返事をしながら食堂に入って来る。

レイシアの行動を振り返ると、どうやら朝には滅法弱いようだ。

目をしょぼつかせて、レイシアはウェッジの隣にすとんと腰を下ろした。

「どうぞ、熱いですよ」

ウェッジは気を利かせて熱い紅茶を淹れて、レイシアに渡す。

「あ~、ありがとうございます」

彼女は口を付けると熱さで目を白黒させた。

だが、おかげでどうやら眠気を払えたようだ。

レイシアもウェッジに倣ってバケットに噛り付く。

のんびりと味わっている彼女の姿を横目に、ウェッジは朝食をサクサクと処理した。

やがてレイシアも食べ終わり、食堂にゆったりとした時間が流れる。

そこに、今度はアートンが入ってきた。

「アートン様、おはようございます」

「クロイツ、異常は無いか?」

「はい、アートン様もお勤めお疲れ様です」

お勤めというのは、教祖テレサの警護のことだろう。

「そうだ、クロイツよ。食料の管理だが、一度在庫の再確認をしておいてくれ」

「了解しました。何か気になる点がおありで?」

「あぁ、どうも食料の減りが早い気がしてな。今度の船便まで十分に持つ量はあると思うのだが、念のためだ」

アートンとクロイツの会話を聞いて、ウェッジは思わずレイシアと顔を見合わせた。

「ウェッジさん……、それって」

「そうですね……」

小声で相談する二人。

二人が脳裏に描いたのは、スタンリーであった。

スタンリーがこっそり食料を拝借しているために、予定以上に備蓄が無くなっているのだ。

ウェッジはレイシアにアイコンタクトを送ると、すっと手を挙げた。

「すいません。そのお話ですが……、私が夜食に少し食料を頂いていましたので、それが原因だと思います」

さらっと嘘をつくウェッジ。

「そうなのかね?」

アートンは眉を片方上げて、怪訝そうな顔をする。

「しかし、夜食でつまむにしては……、減っている量が多いのだが?」

「それは……」

言い淀むウェッジにレイシアが助け船を出した。

「あ、あたしも夜食で貰いました。その、ウェッジさんと、そう、夜の女子会です! 女子会したんで、ちょっと食べ過ぎちゃって!」

勢いで誤魔化そうとするレイシア。

「じょ、女子会?」

「そうです!」

何度も頷くレイシア。

「女子会とは……? クロイツ……、分かるか?」

「アートン様……。いわゆる女子会というのは、女性たちの飲食を伴う集会のことです」

アートンは戸惑いながらも、なるほどと納得したようだ。

「お二人よ。我々はあなた方を客人としてもてなすが、あまり羽目の外れた行動は控えてもらいたい。その、女子会とやらで勝手に食料を漁るような真似のことだが」

アートンは厳しい口調で二人に釘を差す。

「すいません、許可なく食料を頂いたことは謝ります」

ウェッジは神妙な顔をして、頭を下げた。

アートンはそれを見て、態度を軟化させた。

「あくまで、我々の善意で滞在していることは忘れないでくれたまえ」

そう言うと、クロイツにいくつか指示を出してアートンは食堂を去っていった。

クロイツは失礼しますと一言告げて、アートンの後を追う。

食堂にはウェッジたちだけが残った。

ウェッジはアートンたちが十分に離れているのを確認してから、軽くため息をついた。

「この件、彼に貸しとしましょう」

「そうですよ。あの人たちに大飯喰らいと思われちゃいましたし」

(それは貴女の女子会発言のせいでは……?)

しかし、思った事を口には出さず、ただ頷くだけのウェッジであった。



数ある作品の中から、本作品をお読み頂いてありがとうございます。


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