115話 目覚めと眠気
「うぅ~ん、と」
薄着の少女は陽の光を受けて軽く伸びをした。
銀髪がわずかに揺れ、きらめいている。
少女はベッドから降りると、窓に向かって歩き出した。
窓を開けると、気持ちのよい潮風が頬をなでる。
朝の空気はほのかな冷気が混じり、少女の眠気を晴らしていく。
少女はちょっと思いつき、素足でベランダに出てみた。
白く細い足がタイルの冷たさに少し震える。
眼下には海が広がっていた。
少女はここに来るまで、これほどの海を見たことはなかった。
手すりに身を乗り出して、空と海の奥まで覗いてみようと試みた。
そこで、足元に気配を感じた。
目を落とすと、スタンリーが微妙な顔で鉤縄に掴まっている。
「よ、よぉ、おはよう、レイシア」
「……」
レイシアは寝起きの頭をこのときフル回転させた。
スタンリーの視線の角度、風でたなびく自分の服装。
下は履いていたが上は何も付けていない。
風であおられると下の角度からでは胸元が丸見えになってしまう。
そして、導き出された結論。
この男、生かしておかぬ。
レイシアは足元まで昇ってきたスタンリーの顔をめいっぱい踏みつける。
「きゃあ! この、変態! 今すぐ、朽ちて! 散って! 落ちて!」
「わ、わ、ぐへ! 待て! ホント、落ちる!」
息も絶え絶えになんとかスタンリーはベランダまで昇りきった。
その横で顔を真っ赤にして胸元を手で押さえるレイシア。
「はぁ、はぁ、すまない……。食堂で朝の食料を物色していたら、人が来たから慌てて窓から逃げたんだが。部屋に戻るにも、見つからないようにしなきゃいけないってんで、外から鉤縄で二階に昇ることにしたんだ。そしたら、どうやらベランダをひとつ間違えてしまったようでな……」
スタンリーは蹴られた頬を押さえながら説明した。
「だから、これ幸いとばかりに窓から乙女の寝室を覗こうとしたんですか!?」
怒気をはらみながらレイシアが噛みつかんばかりに応じる。
「いや、待てって! だから、間違えたんだって! それに、いきなりベランダに出てきたのはそっちだろう!?」
「一度ならず二度もあたしの裸を見ておいて、間違いだなんて!」
この後、スタンリーは何度か蹴られたが、辛うじて事故であることは信じてもらうことが出来た。
「くそっ、もう限界だ……。ふぁ、俺は部屋に戻らせてもらうぞ」
昨日の夜の調査とこの朝の騒動で、疲労が一気に眠気に変わって、スタンリーを襲った。
少しふらつきながらドアへ向かう。
途中、床に置いてあった匣につまづいてしまった。
「あっ!」
「おっと、済まない」
慌ててレイシアが匣に駆け寄る。
「あぁ、それ、大事なものだったのか?」
スタンリーが申し訳なさそうに尋ねると、レイシアは匣をかばうようにして頷いた。
「そ、そうなんです。これ、《白銀教会》の由緒正しい持ち運び式の祭壇で……」
子供なら入りそうな大きさの匣を押さえつけるように抱えるレイシア。
よくよく見ると、少し匣がガタガタと動いているような。
しかし、スタンリーは眠気には逆らえず、匣について追求する気力も無かった。
床を踏む感覚も怪しくなってきたが、なんとかレイシアの部屋を退出した。
隣の自室に戻ると、ベッドにうつ伏せに倒れ込む。
騒動ばかりが続き、肝心の調査が進んでいないことに焦りを感じたが、意識はすぐに落ちていった。
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