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ヒーロー×ブレイブ~世界を救った英雄は静かに暮らしたい~  作者: 橋藤 竜悟
第一章:帝国編 第一部四節 交錯の戦争
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31 栄誉と義務

 ロータスの事件から数日、各種報告を済ませ、事後処理を別部隊に任せる形でカインはリベリアへ帰ってきていた。

 当初は、あの事件がほぼ1日の出来事だとは信じられないくらい疲れきっていたが、ここ数日の短い休暇でそれも回復し、今日からまた次の任務が始まる。

 その休暇明け栄えある最初の仕事が、まさか王城での勲章授与式なんてついてない。

 三人の戦闘型魔人を倒したことでの授与になるが、少数と侮るなかれ、通常だと軍が専門の部隊を編成し攻略する化け物である。

 自慢ではないが、それを4人という極少数での攻略となれば勲章授与ともなるらしい。

 しかし、この勲章授与を喜べない理由が俺にはあるため、この式典にあまり乗り気ではなかった。


 正直な話、魔王軍との戦争の時はこういったことがざらであったので、この評価のされ方は少し気恥ずかしい部分もある。

 ただこの事件のおかげで、俺の「英雄」としての国での評価が磐石になったのは嬉しい事だ。ファンのような人間に隠れがちだが、俺のことを本当に英雄としての働きができるのか(いぶか)しむ人間も少なくなかったのが事実である。

 なにせ俺の魔王軍と戦っていた時のメンバーはなぜか俺より知名度があるやつが多い。なぜだろう……俺はそんなに目立たないのだろうか?

 しかし存在から認知されてないヴァンよりマシかも知れない。あれは諜報としてそれでいいのだが、しかし知られていないのはどこか寂しいものでもある。


 そんなこんなで今は戦時中、よって残念ながら金銭等の報酬はないが名誉としての勲章授与と相成った。

 ロータスの町は結局生存者なしであったことが、後ほどの報告で俺の耳にも届いたが、それがこの勲章を素直に受け取り辛い理由の一要因にもなっている。

 しかし辞退するとそれはそれで角が立つため、丁重に拝領することに決めた。

 決して新しい勲章とやらをつけてみたかったとかではない、俺の立場のためだ。それはそれでどうかと思うが、俺の寂しい軍服を勲章の重みで飾りたかったとかではない。……少しは思ったが。


「ほんと、いきたくねえなぁ……」


 王城へついてから通された控え室から、きれいに晴れた空へ向けてぼやく。

 こういった場は魔王討伐後ちょくちょくあったが、どうも慣れない。

 実際何をやればいいのかわからないのが大きい。俺に社交界は無理だ、貴族でなくてよかったと常々思う。


 事務的に勲章もらってさっさと帰りたい気分でいっぱいだが、そうはいかないので鏡の前で笑顔の練習をする。

 不気味に貼り付けたような笑みを浮かべる男がそこにいた。よくて不審者一歩手前である。


「……さっさと終わらせて呑みにいこう」


 それを楽しみに何とか乗り切る作戦とする。


「カイン様ー?準備できましたか?」


 そんなことを考えながら黄昏ていたら、部屋に突然、フィードが入ってくるなり辺りを見回している。


「ほほー、さすがカイン様、私たちと違って個室待機なんてブルジョアですねぇ」


 フィードは派手過ぎない、落ち着いたドレスを着ていた。もともとエルフは美男美女が多い種族ではあるが、今のフィードなら俺はすれ違った後振り返る自信がある。

 これで黙っていたら完璧なのだが……。そうはいかないのが現実の悲しいところである。


 この授与式には我らが遊撃隊全員が呼ばれているため、フィード、ジン、マオも別の部屋で控えていた。

 どうやら向こうは三人で一部屋らしい。俺もまとめてくれてかまわなかったが、そうは行かないのだろう。寂しい……。


「フィー、お前こんなところに来ていいのか?待機命令が出てただろ」


 きょろきょろと辺りを見回すフィードに向き直りながら諭す。まあ、ここにいるということは聞く気がないということがありありとわかるわけだが、一応これでも俺の部下なわけだから自由すぎるのも困る。


「そんなの無視に決まってるじゃないですか。王城のこんなとこにこれるのなんてめったに……ブフォ!!」


 フィードは言いながらこちらを見て、俺の姿を確認すると一瞬硬直し次の瞬間、盛大に(ふき)()した。


「カ、カイン、様……!なんでそんなに似合ってないんですかっ!!」


 言いながらも笑い続けるフィード。

 自分でも思ってはいたが、こう他人に面と向かって言われるとさすがに傷つく。

 そもそも俺は一応お前の上司なんだが、それも今更ではあるがここまで自由だとフィードの将来が心配になる。

 これも今更か……?


「……そこまでか?」


「そりゃもう!着られてるどころじゃないですよソレッ、まだ子供のほうが着こなせてますっ」


 それほどか……。以前もこういう格好をフィムやディノに笑われたが、そこまで言われるほどだったのか……。

 これを着て授与式に出る自信が全くないのだが……今からでも儀礼用の軍服をとってきてもらえるだろうか?


「そうか、やはり代えてもらうか。自分でもどうかと思っていたしな。ありがとうフィード君、君の意見は大変役に立ったよ。なのでさっさと部屋に帰れ」


 そういって部屋からフィードを閉め出す。

 閉め出しついでに外で待機している衛兵に着替えを頼むと、衛兵はこちらを見ないままハキハキとした声で答えた。

 ……ホントにこの服で行かなくてよかったようだ。一生もののトラウマを抱えるところだった。


「えー、カイン様が着替えるんだったら合わせた私たちも変えないといけないじゃないですか!めんどくさいんでそのままで行きましょうよ」


「お前は俺に何の恨みがあるんだ?いいからさっさと帰って着替えろ」


 ちぇーといいながら渋々部屋へ帰っていくフィード。何のために来たんだあいつは……。


 そのまま着替えが到着し、着慣れたものより少し装飾が強く、重い軍服に袖を通す。

 うん、これなら大丈夫。いつも通りだ。いつも通りがダメだったらもう終わりなので考えないようにしよう。

 変に自信をなくしたまま、式の時間になり王城付の使用人が呼びにきた。


 途中フィードたち三人と合流し、国のお偉方が待つ中央広間へと向かう。

 といっても規模は小さなもので、一部の将軍、大臣、王族の面前での授与式である。そこまでの緊張はしていない。

 フィードはドレスではなく儀礼用の軍服に変わっており、少し残念な気分になった。マオの格好も見てみたかったのもある。ジンはいい、簡単にどうなるか想像できる。


「じ、自分はこういう場は初めてなので、本当にここにいていいのか不安でたまりません」


 ジンが繊細なことを言っている。いつもはあんなに前に出る筋肉馬鹿だというのに……どうやら式典などは苦手らしい。

 とても親近感を感じる。仲間がいるおかげか俺のメンタルにも少しの余裕ができた。


「……いつもどおりでいい」


 マオは一切緊張していないようだ。慣れているというよりは単に豪胆なだけなんだろうが、ここまでくると頼もしさすら感じる。


「うぅ、じっとしとかないといけない時って何でこんなに跳ねたくなるんでしょう……」


 フィードが何かつぶやいている、子供かお前は。

 お願いだから式中は大人しくしていてほしい。お前たちの評価がそのまま俺に飛んでくるのだ、巻き添えどころか後ろ弾に近い。


「広間に入るぞ、ここからは一言もしゃべらないで、俺の後ろに並んで立っておけ。名前が呼ばれたときにだけ返事して、俺が退出するときについてくるだけでいい。お願いだから何もするなよ」


「ヒューヒュー、カイン様カッコいいー。あ、それで質問ですが息はしていいですか?」


 フィードがすかさず茶化してくる。お前ホントは余裕なんじゃないのか?


「黙れ。行くぞ」


 言うとカインは大扉に手をかけた。




 ****




 中央広間にカインたち四人が入ってくる。

 それを王族観覧席から眺める少女が一人、横にはエルフの従者が控えている。


「……カイン様が提出した書類におかしな点はなかったのね?」


 少女、第3王女『ルクレツィア・ミル・リベリア』は従者に尋ねる。


「はい、私共で調べた結果ほぼ間違いなく、細かな誤差はありますが自然の範疇かと」


「そう、ならそろそろ決めてもらわないと難しくなってくるわね」


 ルクレツィアはため息混じりにもらす。


「かしこまりました、では私の方で接触を図ります」


「いえ、今回は私が行くわ。いまさら隠し通せるものでもないでしょうし、その方が彼も真剣に考えてくれるでしょうしね」


 式は滞りなく進んでいく。大臣が面白みのないありきたりな文章を読み上げ、それを聞き流し勲章を受け取るだけの簡単な式だ。

 カインが勲章を受け取るために前に出る。動きが硬く、できの悪い操り人形のような英雄を彼女は眺める。


「……かしこまりました。周辺警護はおまかせください」


「よろしくね、このピースは決して落とせないの」


 授与式は滞りなく進んでいく。ルクレツィアは眺めながら、あの男が真に英雄の器たるか掴めずにいた。


「――ここで負けたら、リベリアも終わりね」


 誰にも聞こえないような小さな声でつぶやく。

 王女としてのものか、彼女自身の吐露によるものか。小さな声は誰に聞かれることもなく広間に消えた。




 ****




 なんとか授与式を終わらせ、カインは待機室に戻るとすぐに元の服へと着替えなおした。

 深々と椅子にもたれかかり大きく息をつく。

 礼服というのは軍服形式としても堅苦しいことにかわらず、どうしても息が詰まってしまう。

 あとは迎えが来るのを待ってお終いだ。

 また戦争と任務の日々に戻ると思うと心も重いが、式典と社交界の日々と比べると雲泥の差がある。

 こんなことを繰り返さないといけないとなると胃に穴が開きそうだ。


「……おそらくそろそろ本土での最終戦が見えてくるな」


 俺が参加したトントを皮切りに、リベリアは少しずつだが帝国を押し返している。

 これは帝国が他の諸国ともいざこざを起こしているためでもあるが、あれ以来ユカリの姿を見たという報告がないことにも由来している。

 実際ここまで領土を侵攻されたのも彼の力が大きかったようだ。

 そういった流れで、帝国侵略部隊の主力は聖都シーディアとの国境付近にあり、現在急ピッチで要塞化されているマイト砦まで後退、ここを最終防衛線としているようだ。


 近々この砦を攻略するための大規模な作戦が立案されるらしい。

 この作戦はリベリアの総力戦となる。確実に自分も呼ばれるであろう、そしてそこにユカリもいると見ていい。

 考えたくはないが、彼を止める役割が自分に回ってくることは容易に想像できた。正直辞退したい、前回負傷した腕が痛むくらいにはトラウマだ。


 そんなことを考え憂鬱に浸っていると、ドアが小さくノックされる。

 俺が小さく返事をすると、ノックの主が答えて扉を開ける。


「カイン様、お時間よろしいでしょうか?」

残念なことに、リベリアも一枚岩ではありません。

政治の流れとは無関係ではいられないカインさんに、次の試練が待ち受けます。

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