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ヒーロー×ブレイブ~世界を救った英雄は静かに暮らしたい~  作者: 橋藤 竜悟
第一章:帝国編 第一部四節 交錯の戦争
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32 事情と思惑

 誰か来たようだ、聞いていた時間より早いが迎えが到着したのだろうか。


「ん、ああ、大丈夫だ。入ってくれ」


「ありがとうございます。では、失礼いたしますね」


 やけに優雅な話し方、なんだ、迎えじゃないのか?と疑問に思いつつ開く扉を椅子に座ったまま眺める。

 開いていく扉からドレスがちらりと見えた瞬間、即座に立ち上がり敬礼をする。


「し、失礼しましたっ!王女殿下とは露知らず、無礼をお許しください!」


 ど、どうして王族が俺に会いにくるんだ!?面会なんて話も聞いてないぞ……!


「あら、かしこまらなくても結構です。そのままお掛けになっていてよろしいのですよ?」


 彼女は部屋へ入ってくるとカインの対面にある椅子へと腰掛ける。見た目は12、3歳の少女だ。

 育ち良さが伺える美しい立ち振る舞い、透き通るように白い肌、艶やかですべるような黒髪、その髪間からは肌と同じ色の小さな角が見えている。

 なぜ第3王女ルクレツィア様が俺の部屋に?しかもどうやら部屋に入ってきたのは一人だ、王族が護衛もつけず俺なんかの部屋に来るのはどう考えてもおかしい……!


 もしかして、俺は授与式でなにかやらかしたのか?


「は、はい!了解しました!」


 一人で混乱している中、声をかけられて何とか椅子に座りなおす。座るだけなのに足を引っ掛けて転びかけた、かなりまずい状態だ。


 俺はどうしたらいいんだ……?これはドッキリか?ドッキリなのか!?

 俺が盛大に心の中で慌てふためいていると、彼女はクスクスと笑った。


「そんなに緊張しなくてもいいわ。私とあなたは種族は違えど同じ言葉を交わす『人間』でしょう?なので、あなたの普段どおりでかまいません」


「いえ、しかしそれでは他の兵たちに示しがつきませんし、恐れ多くてそんなことは」


 王族相手にため口なんて怖すぎてできるか……!それだけで誰かに聞かれていたら謹慎くらいそうだ。

 そもそも種族よりも地位の違いの方が、今の現状では大切だと思うのだが。


「ここには他の兵などおりませんよ。ではこうしましょう、これは私からの()()()です。聞き届けてもらえませんでしょうか?」


 これはずるい、こんなの無視できるわけがない。小さな少女と思えないような交渉術だ……。王族恐ろしい。


「グッ、お願いなら仕方ありません、何とか努力してみます。いえ、努力する」


「フフッ、お願いしますね。私のわがままですが、この身分で壁を作られるのはあまり好きではないの」


 気持ちはわからないでもないが、それはもうどうしようもない物なのではないだろうか……?

 相手が国の王女と知っていてそのまま自由に接することができるのはよっぽどの馬鹿か、真の勇者くらいだ。


「あなたとはいろいろとお話してみたいのですが、私にもあまり時間がありません。早速本題にはいらさせていただきますね」


「わかりま……わかった。俺が何かやらかしましたでしょうか?」


 もう自分で何を言っているのかいまいちわかっていない。


 いったい何が始まるんだ?授与式で勲章を拝領するのに進み出るとき同じ方向の腕と足が同時に出たことか……!?

 あれは仕方ない、あの場にルクレツィア様を含めて王族が3人もいたのだ……!

 大きな式典でもないとそんなに集まらない。緊張しない方がおかしい!


「単刀直入にいいます。カイン様、あなたの部隊を王族直属の近衛部隊に組み込みたいのです」


「あ、あれは事故みたいなもので……え?」


 部隊を……?エリート集団の近衛に……?


「?、あれとは?」


「いえ、なんでもありません。しかしわた、俺の部隊を王女直属に、ですか?」


「ええ、将軍には話を通しております。後はあなた次第なのですがいかかでしょうか?」


 なんだそれは、いきなり話が飛び過ぎだ。これはもう軍部だけではなく宮廷政治にまで食い込んでしまっているのではないか……?


「……お言葉ですが、なぜここで俺なのでしょうか?確かに俺は『救世の英雄』としての肩書きは持っていますが、政治には全く興味も知識もありません。組み入れても他のご兄弟からよく思われないだけではないでしょうか?」


 恐る恐る王女に意見をする。この部屋に近衛がいたら連れていかれても文句を言えないだろう。

 しかし、王女は「部隊を」と言った。この話が俺以外の3人に波及するとなると、相手の真意はなんとしてでも引き出さねばならない。


「その疑問はもっともです。確かに、ただ組み込むとなるとお兄様方から不信感を買うだけとなるでしょう。そこで、あなたの隊には私が管轄する王宮護衛の近衛連隊に組み込ませていただきます。私が管轄しているといっても、その連隊の備品管理権限くらいのものしか持ち合わせておりません。実質人事などは護衛対象の王族が各自で行っております」


 近衛の方の事情は知らなかったが、そうなっているのか。各王族がそれぞれ自分が動かせる軍を持っているとなると、現状無所属の俺はどうなるんだ?


「そこで貴方の隊は指令を受けた連隊の応援として参加する特殊部隊となってほしいのです」


 なるほど、要するに手伝いとして動かそうという腹積もりか。わざわざその話を俺に通しに来たということは、どういった事情なのかもなんとなく見えてきた。


「そうなると王女殿下にはあまり得がない上、場合によれば割を食うだけになるのでは?」


「……そうなるかもしれません。ですがそれ以上にこちらの状況は切迫しているのです」


 やはり何かはあるようだ。このあたりで踏み込み、彼女が何を考えているか探るしかないか。


「そちらの申し出はわかりました。しかし殿下のお話では事情と真意が見えてきません。俺はそこがわからないと協力できかねます」


 俺がそういうと、ルクレツィアは少し考え、決意したようにこちらを見た。

 こんな少女がする表情ではない。いったいどんな修羅場を潜ればこうなるんだ……。


「わかりました。ではこちらもできる限りお話します。この話を聞いた以上あなたがこの人事に賛成しなければ、しかる対処をすることになりますがよろしいでしょうか?」


 薄々わかっていたが、そこまでの案件らしい。

 ……このままジンやマオ、フィードを巻き込む形になるかもしれない。俺はその責任を背負えるだろうか?……いや、背負わなくてはならないのだろう、それは今までだってそうだったに違いはないのだから。

 本人たちの意志を聞けないのは申し訳ないが、ここで退いたら次はないという予感がする。そしてそれが決定的な分かれ目であることも。

 この場を、異様な空気が占領していた。


 いつぞやの悪い予感が見事的中していたことになる。文字通りあの時の二の舞だ、違う点があるならあの時と違って逃げられそうにないという所くらいだろう。

 あの時の感覚と酷似していた。……ただ、状況は余計に悪化している所以外は。


「……殿下にそこまで言わせる案件なのですね。わかりました、その申し出了承しましょう」


「え、ほんとうですか……?」


 ルクレツィアはその大きな瞳を困惑の色に変えた。

 どうやら彼女は内容を聞かずに了承したことに驚いているようだ。


「ええ、結局どこへ向かっても逃げることはできなさそうなので、それなら自分の目で判断させてもらいますよ。これからよろしくお願いします、王女殿下」


「ああ、あぁ!ありがとうございます!私、嬉しくて跳ねてしまいそう!」


 話を受け入れたとたん、ルクレツィアは顔を笑顔で輝かせ、椅子の上で小さく跳ねた。

 突如見せた王女の子供らしい一面に驚いたが、なによりその破壊力たるや結婚を墓場だと考え、侮っていたことを後悔させるほどだった。

 父親の気持ちが少しわかってしまったかもしれない……わかりたくなかった……独り身にこの幸せがないなんて……!


「?どうしたのですか?突然顔を覆ってしまって……?あ、はしたなかったですね、すみません」


 いそいそと身の回りを整えるルクレツィア王女。照れてらっしゃるのもお可愛い。

 ダメだ、このままでは自由から程遠い人生を歩まされてしまう……!邪念よ去れ!!


「いや、違う、いいんだ。人生という迷路に迷い込んでいたんだ……」


 結婚して家庭を築くのも人生設計として考えたほうがいいのかもしれない、この歳になってはじめてそう思えた。


「コホン。は、話を戻しますね。ではこちらの事情をお話します。実は現在お父様……リベリア王『オーランド・ウル・リベリア』の体調が優れません」


 今日授与式で玉座から一切動かなかったのはそういうことか。風の噂では聞いていたが、王女の話す表情からすると相当重いのだろう。

 それを国民どころか兵にもひた隠しにしている、ということは後継問題か対外政策か……。


「そのことから、恥ずかしながら私ども兄弟での政争が激しくなっています。この戦争中にそういった暇はないのですが……こちらもそれを黙認できなくなってきました」


 話しながら王女は封書を取り出し、こちらに渡してきた。

 その中身は俺が盗賊騒ぎの時に送った報告書と、帰ってきてからまとめたものだ。


「その中、この報告書を見て確信しました。わが国リベリアの王族に、帝国と繋がっている者がいると」


「……これだけでそこまでわかりますか。なるほど、わかってしまうくらいには何かがあるわけですね」


 俺はゼドから聞いた話は一切報告書にまとめていない。ただ盗賊が持っていたものとして魔装具を送ったくらいだ。

 それと俺の起こった事をまとめただけの報告書からそこまで推測し、それを事実として調べ上げてしまえるのか。


「やはりカイン様も何かをご存知でしたか。盗賊団の者たちは何も言いませんでしたが、こちらの情報とあなたの報告書でここまでたどり着けました。ですが誰がつながっているのかまでは、まだわかっていません」


 ルクレツィア王女がこちらを見据える。その瞳には強い意志が見えた。


「それを貴方に探ってもらいたいのです、救世の英雄様。どうかこの国を帝国から、ひいては愚かな王族同士の争いからお救い下さい」

カインさんは政治的なムーブがとても苦手です。

それするくらいなら棒切れもって山羊追いかけてた方がましだと思うレベルで苦手です。

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