30 れすといんぴーす
ロータスから帰ってきて3日の休暇をもらえた。
しかし、たまっていた作戦の報告書類などにより短い休暇が忙殺されかかったが、何が何でも遊んでやると執務室に籠もり、フィードと共に2日で全てやりきった。
今まで書類仕事から逃げてきたつけではあるが、これで時間は確保できた。とりあえず休む!なんとしてでも休む!
休暇最終日、昼過ぎに知り合いの男共に招集をかける。町に繰り出した俺は、今一軒の店の前にいた。
ここは『乙女の嬌艶』冒険者や労働者が集まり大声で笑い合いながら酒や料理を楽しむ場所、つまりは酒場だ。
途中合流したジンと共に俺が扉を開けると、小気味いいベルの音が鳴る。
店主である『イーラ・スフィア』が愛想のいい笑顔を浮かべ、注文を取りに来た。
「いらっしゃい!ってカインさんじゃないの、今日は何人?」
連れ立って入ってきた俺に気づき、イーラは気さくに声をかけてくれる。
彼女は劇団の元踊り子で、1、2を争う人気があった。今の旦那と結婚してから酒場の看板女将となったが、昔からのファンが常連となりいつもよく賑わっている。
かく言う俺もリベリアでは救世の英雄と持ち上げられているが、この酒場にはよく来るため彼女は他の常連のように分け隔てなく接してくれる。
「俺を入れて三人かな。イーラさんいつものやつ二つ頼める?」
「はーい、エールね。あんたー!エール二つよろしくー!」
すると厨房から手が出てきて、サムズアップを決めた後に引っ込んでいった。
アレがここの料理長兼イーラさんの旦那というラッキーを手にした羨ましい男だ。
しかし、その顔を見た者はいないという。かくいう俺も見たことが無い。最近では都市伝説のように存在が語られている謎の存在だ……。
そんな他愛のない事を考えていると、
「よお、悪いな遅くなって」
すると、遅れて入ってきた腐れ縁のジェイドが声をかけてきた。
「いや、俺達も今来たとこだよ。早く座れ今日は呑むぞ」
俺がそう急かすとジェイドは少し驚いたような表情をして、呆れたようにため息をつく。
「で、そっちのエルフの兄ちゃんとは初対面だよな?」
「は、はい!自分はカイン様率いる遊撃隊の一員である“ジン・フォガード”というものです!本日はよろしくお願いします!」
「ははっ、俺なんかにそんな固くならねぇでいい、俺は“ジェイド・ルード”だ。カインとは腐れ縁のしがない一般兵だよ」
そう言いながら慣れたように女将さんに注文をしている。
ジェイドの見た目は軽薄そうにしか見えないが、これでリベリア軍の下級指揮官であるのだから驚きである。
「で、俺に相談ってことはあれか?何かやったか?」
「そういうわけじゃないんだが……」
俺の歯切れ悪い対応を見て不思議そうな顔でこちらを見てくるジェイド。
「仕事じゃねぇとすると……アレか?」
こういう鋭いところに付き合いの長さを感じる。
アレだけで通じ合える数少ない友人だ。
「あぁ、どうやら俺は……」
重苦しく話し始める俺を見てジンもジェイドも顔を引き締め真剣な表情になる。
「……モテないらしくてな」
「「ぶふっ!!!」」
ジンとジェイドが同時に吹き出す、こいつら……。
「か、カイン様ここで冗談はずるいです……!」
「いや、お前それは……くくっ」
一発殴るか?
俺が若干の殺意を向けると、ジェイドは慌てたように取り繕い始めた。
「あ、あぁなるほどね。だから俺に相談したわけだろ?いやーカインはやっぱわかってるよ、うんうん」
ものすごく適当に流された気がするが、こいつはこれでかなりモテる人間だ。
俺にはどこがいいのかさっぱりわからないが、彼女がいない期間の方が少ないほど女性に事欠かない。
傍目からは女を取っ替え引っ替えしているようにも見えるが、二股などの話は不思議と聞かないため、誠実なのか不誠実なのかよくわからない男でもある。
「はぁ、出会いがほしい……」
俺が己の出会いに嘆きながらエールをあおる。
するとジェイドは少し考えた後呆れた様な表情でこちらを見た。
「よく考えてみろよ、お前にはフィードちゃんがいるじゃねえか。とりあえず死ね」
いきなり死ねとは何だ。
「いやいや、フィーはあれだろ、違うだろ」
「何が違うんだよ?あんな美人にアタックされまくってよ!俺だったら速攻ベッドに行くね」
こいつ、本人の前で部下に対してなんてこと言いやがると思ったが、そういう話をするために呼んだ事を思い出す。なんてことだ俺も同罪だった。
「フィーはなんと言うか、大事な仕事仲間というか家族みたいなもんだしな……」
「あー、これはフィードさんも大変ですね……」
ジンが憐れむような表情をする。
「だよなぁ……というかこいつの場合は全部わかった上で無視するというか、違うものとして見るからタチが悪い」
少しギクリとする。まぁ、あれだけアタックされていればどんなボンクラでも気づきもするが……。
あれは一種の刷り込みみたいなものだ、フィーにはもっといい出会いがある……なんて言えたら楽なんだが。
「え、カイン様やっぱり気づいてたんですか?」
「こいつは昔からこうなんだよ、自分から何かが壊れるのが怖いのさ」
ジェイドのあんまりな言い草に言い返したい気持ちもあるのだが、事実故に言い返せない。
そうじゃなけりゃ、今この国で剣を振ってはいなかっただろう。
「うーん、そうなると自分はフィードさんが少しかわいそうに感じます」
「だよなぁ……あっそうだ、いっそ俺が貰っちまうっていうのはどうだ?それも楽しそうだ」
ぎょっとしてジェイドを見ると、ジェイドは何故か目を見開いて両手をあげた。
「待て待て、流石に冗談だって……そんな怖い顔すんなよな」
「は?」
そんなつもりはないのだが……。
「カイン様、今ものすごい怖い顔してましたよ……あれは魔王城到達直後って感じでしたね、間違いないです」
なんでお前がその時の表情を知っているんだと突っ込みたいが、それよりもジェイドに本気の威圧をしてしまっていただろうことが問題だ。
今日の俺はどうも冷静ではないらしい。
「すまん」
ここは素直に謝る、悪いのはどう考えても俺だしな……。
「いや、大丈夫だ。俺も悪かったしな、お互い様だ。しかし、それならそれで踏ん切りつけろよ。男の前に大人だろ、お前は」
そう言ってワインの入ったジョッキをこちらに差し出してくるジェイド。
俺もエールの入ったジョッキを差し出してぶつけ合わせる、これで仲直りだ。
「ジェイドさんとカイン様は本当に仲がいいのですね、あとでそこら辺の話も聞かせて欲しいです」
「ははは、男と男の出会いなんて大した話にならねぇよ、それよりも……だ」
そう言いながらジェイドが意味深な視線をこちらに送る。
「トント奪還作戦の報告書読んだぜ?結構女の子との出会いはあったっぽいけど、そこらへんどうなんだ?」
こいつが報告書を読むとは珍しい、変なものでも食ったか?
「あったといえばあったが、そもそもあれを出会いと言うのはどう考えてもおかしいだろ」
記憶に残ってるやつらなんて全員敵だぞ。何より全員一癖も二癖もあるメンツだったし。
「とりあえず覚えてるところから行くかぁ、サラちゃんって子はどうだったんだ?」
サラ?あぁ、あの学名エルフモドキの魔術師か。
「アレは確かに美少女って言ってもいい見た目してたが、発育が残念だしなによりガキだ」
「えーエルフで美少女なんてかなりのレア物だろ?俺、発育悪いエルフなんて見たことないしな」
ジェイドはどうやらエルフのことを詳しくは知らないらしい。座学は苦手だったみたいだしな。
俺がサラをモドキと決めつけているのは罵倒しているわけではなく、“それだけは絶対にありえない”からだ。
エルフは美形で背が高く、スタイルがいいという特徴があるが、大人のエルフは例外なく皆そうなのだ。
つまりサラのような少女がエルフである場合、必然それはエルフの子供ということになるが……本当にそれだけはありえない。
なぜなら――
「ジェイドさんが見たことないのも無理ないですね、エルフは絶対に子供を里から出しませんから」
「へぇ、なんか意味ありげだが、ちゃんとした理由があるのか?」
ジェイドが興味深げにジンに質問する。結構踏み込んだ質問だが大丈夫か?
「はい、ジェイドさんはエルフが長寿なのは知ってますよね?」
「まぁそれくらいはな」
「エルフは個人が永い時を過ごす種族なので、子孫を残す欲というか、ぶっちゃけると性欲がかなり薄いんですよね」
この話題はジンの、というよりエルフのかなりデリケートな部分でもある。
にしても、言葉通りかなりぶっちゃけたな……。
「しかも体質的に子供が出来づらいっていうのも相まって子供は本当に貴重なんです」
「あー、なるほどな。いくらエルフが長寿でも子供が何か事故でも起きて全員いなくなったら……」
「エルフは終わりですね。なので里で囲ったうえ厳重に保護されます。外はエルフにとって危険すぎますからね」
リベリアではそうでもないがエルフは存在自体が芸術品として扱われている地域もあるらしく、エルフの奴隷はかなりの高額で取引される。
そのせいか貴重で見目麗しいエルフを“狩る”ために野盗が徒党を組んだり、ひどい例だと国軍が動いたこともあったとかいう話だ。
あの『子供を守るためならば戦争すら起こすエルフ』が子供を里の外に出すなど絶対にありえないのだ。
「だからサラさんという方を最初に見たときは本当にびっくりしました」
これは俺もそうだ、まぁ俺は早くからエルフではないナニかと思うことにしたので動揺は少なかったが……。
「にしては普通に殺しにかかったそうだが?」
ジェイドが当然の疑問をジンに向ける。
「あれはこちらの動揺を誘う精神攻撃か何かだと思ったんですよ。というより思うことにしました」
ジンは誤魔化すように手に持ったジョッキを飲み干す。
おい、お前それ何杯目だ……?
「あんなところにエルフの子供がいるわけないじゃないですかぁ!どうせ帝国の卑劣な罠か何かだと思ったんですよぅ!!!」
ドンとジョッキを机に叩きつけるジン。
なるほど、ジンはこういう酔い方か……。
「それに魔法の威力も桁違いで手加減なんてできませんし……自分は悪くないです!ですよねカイン様ぁ!」
叫ぶジンに肩を強く揺さぶられる。
くっ、なんて力してんだこいつ!振りほどけんぞ!
「まぁまぁ、落ち着けって。結局サラちゃんは死ななかったんだろ?それでいいじゃねぇか」
ジェイドはそう言いながらジンを止めてくれる。
さすがは俺の親友だ、頼りになる。
「それよりも他の娘の話だ!次はラーファちゃんだな!」
俺の感動を返せ。
「ラーファさんってあの聖都のシスターでしたっけ?なんであんな場所にいたんでしょうね?」
あ、そうかジンはあいつがフィムの娘ってことを知らないのか……。
めんどくさいことになりそうだ、黙っておこう。
「あいつが20年早く生まれてたら求婚していた……と言いたいが親が俺にとって最凶の地雷なんだよ」
敵認定したら個人相手に平然と国を挙げて仕掛けてくるあのフィムが親なのだ、そんな娘に手を出すのは勇者か何か――。
英雄の俺には無理だ。フィムに喧嘩を売るくらいなら魔王ともう一回戦う。
「え?相手の親御さんと知り合いなの?チャンスじゃん」
「手を出したら聖騎士団派兵されるけどな」
「は?聖騎士ってあの聖騎士か?10倍強いとかいう触れ込みの」
正確には『普通の兵士10人がかりでようやく互角になれる』だが、概ね間違っていないしいいか。
「ってことはあれか?ラーファちゃんってお偉いさん……?」
「お偉いさんの娘だな」
「そういうのはあれだ、やめとこう。いいことないぞ」
こいつにしては聞き分けがいい、過去に何をやらかしたんだコイツは。
「エルフのような子供に聖都で立場のある子供、更に勇者も子供……自分はもう意味がわからなくなってきました」
ジン安心しろ、俺もはじめ見たときは理解できなかった。
「あとはクリスっていう帝国軍の子が相手側で最後か、一応見た目大人枠じゃねえの?どうだったよ」
こいつまさか女のことだけ全部覚えてきたのか?
このバカが報告書を読んでいた理由が今わかった。
「まあ、あの中じゃ1番の常識人っぽかったし、かなりの美人ではあったな。俺にとってはまだまだガキだが」
そもそも10代の少女に欲情するほうがおかしい。
やはり女性は包容力と色気だろう。
「かっー!わかってないな!女に年齢なんて関係ないだろ、ビビッときたらそれが正解なんだよ。ジンもそう思うよな?」
「自分は自分のことをわかってくれる女性ならそれで……」
ジンは魔法が得意なエルフなのに前線で剣を振る兵士であり、実は中々に変わったやつである。
そのため故郷の里でも色々とあったそうだが、今度そのあたりの詳しいことも聞いてみるか。
「くそー、この中で魅力がわかるのは俺だけか、カインは拗らせちまってるみたいだしな……」
「おい、それは聞き捨てならんぞ!俺が好き好んでこんなことになってるわけじゃない!」
大事なのは大人の色気だ!なぜわからん!
「うるせぇおっぱい星人、お前には貧乳ちゃん達の苦しみはわからねぇだろうなぁ!」
うっ、確かに巨乳好きは否定できない……。
「そういえばマオはどうですかね?いい子ですし、脱げばすごいって噂もありますよ?」
ジンがなんとなしに爆弾発言を投下する。
「お、おい、マオはあれだろ……違うだろ」
これではフィーのときと同じだ、ワンパターンすぎる自分に絶望する。
「んー、でもまだ付き合いも薄いですし家族って扱いは無理ありませんか?」
ジンが鋭い指摘をしてくる。お前酔ってたんじゃないのか?
「マオはなんというか……姪というか娘のような、可愛いのは俺も全面的に認めるが」
「うぇ、お前彼女もまだなのに親馬鹿かよ。そりゃ出会いも逃げるわ」
キッと睨むとジェイドは顔を背けて口笛を吹き始める、うまいのが腹立つ。
「そんなこと言ったってカイン様の周りって若い女性ばかりですよねぇ!マオの何が問題なんですか!」
「そうだそうだ!フィードちゃんとマオちゃんを悲しませるなー!」
ジンとジェイドがここぞとばかりにフィーとマオを推してくる。
俺の気持ちも知らず好き勝手言いやがって……。
ここはガツンと言うべきだろう。
「いいかよく聞け。フィーやマオと俺が付き合うことはない!絶対だ。なぜなら俺には、俺の未来にはきっと色気たっぷりなボインな姉ちゃんが待ってるからだぁああああ!!!」
宣言と同時に拳を突き上げ立ち上がる。決まった、俺の勝ちだ。
確かな手応えを感じ、視線を二人に戻すとジェイドはそそくさと帰る準備を始め、ジンは何故か机に突っ伏していた。
「ん?ジェイド?なんで帰ろうとしてるんだ?」
するとジェイドは目を背けながらぎこちなく笑って、
「いやぁ……なんか彼女が俺を呼んでるらしくてな……帰るわ!」
いやいやお前何を言ってるんだ?幻聴が聞こえるほど呑んじゃいないだろ。
「待て、呼ぶって一体どこから――」
「言葉じゃねぇよ、心で感じるんだ……じゃあな!!!」
言うが早いか脇目も振らないダッシュで酒場から走り去るジェイド。
きっちり自分飲み代は置いていくあたりは流石なのかどうなのか、釈然としない。
酔った頭で理由を考えているとなにやら後ろがざわついているのに気づく。
「なんだ?」と後ろを振り返った俺は絶望した。酔いも一気に冷めるほどに――。
「な、な、な……」
あまりの出来事に脳が現実を拒否する。
しかし、現実は無常にも目の前に広がっていた。
「ねぇ、カイン様?さっきの発言、説明してくれますよね」
「たいちょー……マオは魅力ない……?」
嘘だろ……。
「な、なんでフィーとマオが……」
とっさに逃げようとするが、足が動かない。
まるで足が凍ったようだ……見てみると本当に凍っていた。勘弁してくれ。
「そうだ!ジン!助けてくれ!」
そこにあるのは情けなく部下に助けを求める救世の英雄(笑)の図である。
格好つけていられるか!命の危機だぞ!
しかし、ジンは何故か反応してくれない。
これはまさかと耳をすますと、
「…………グー」
酔って撃沈している気持ちよさそうな寝息だった。
え、嘘でしょ、ジン!?と手を伸ばそうとした俺の両肩に手が乗る。イタイイタイ、痛いですって、いつからそんなに握力強くなったんです二人とも。
「話はゆっくり聞かせてもらいますから……」
「マオはどうすればいい……?教えて……?」
フィーとマオの周囲の空気が揺らいでる。
特にマオはその健気な台詞とは裏腹に目が怖すぎる、完全にこちらを狙う肉食獣の目だ。
どうしてこうなった――。
そんな後悔を胸に抱きながら夜の街を引きずられていくカイン。
彼は後にも先にもこの夜の出来事を語ることはなかったという――
今回も間の話ですが、ロータスから帰ってきてからになります。
彼らにも日常があるのですが、前回までとの温度差が異常ですね。
今回の話で毎日更新は終了です。
次回からは勇者の方と同じく週間で上げていこうと思いますので、間は空きますがゆっくりとお待ちください。
これからも両作品をよろしくお願いします。




