71.助手席
そこそこの荷物を拵えて、
アパートを出る。
鍵をかける。
ガチャリ・・・
隣の部屋の扉は開かない。
ちょっと期待する俺がいた。
出てこないかな、夏美さん。
アパートから歩いて10分。
バス停留所で待つ事5分。
市営バスに揺られる。
意外にも座席から見える街の景色は
雪が降った事を忘れたように、夏を演出していた。
そうして最寄駅に到着した。
やはり新幹線に乗る金が無い俺は
鈍行電車を乗り継ぎすること3時間。
懐かしい駅に到着し、そこから連絡を取り母親が迎えにくる。
相変わらずの黒の軽自動車。
助手席には新たな夫候補の、名前は確か、ミツルさん。スーパーの雇われ店長だな。
俺は後部座席に座る。
住民票を移していない俺は、絵空市では運転免許を取れない為、実家に戻り、免許取得の為の試験を受ける事にしたのだ。
そんな電話をしたら、母から前日に、
この男も休みだから3人でお昼ごはんでも食べよう、
そういった話になった。
早速、洗礼というか・・・
俺からすれば助手席には赤の他人が座っていて
テンションが下がる。
それにしてもタバコ臭い車内だ。
俺に気を使っているのか、ミツルさんはタバコを吸わない。
「楽しい?」
「何が?」
「大学生活」
「この前も聞いたよな、それ」
「同じ事聞いたっていいでしょ」
「まー、楽しいよ」
「ははは、それは良かったね!」
男が会話に混ざってくる。
なんだろう、この、違和感。
嫌だな。うん。嫌だ。
なんつーか、3点くらいだ。
何に点数をつけるでもないのだが。
駅から車で5分。
段々と懐かしい景色が見えてくる。
「昼、何食べんの?」
「何か食べたいもの、あるかい?」と男。
「特に無いッス」スカす俺。
「私は蕎麦かなぁ〜」
「いつもの店行くか」
「そうね」
こうして、蕎麦屋にたどり着く。




