63.天ぷら
「何してたの」と真琴。
「見りゃ分かるだろ」と俺。目線が合わない。
何故か、合わせられない。
「なんか久しぶりじゃない?」
「バイトから合宿、ずっと顔を合わせてたからな」
「だよねー」
時が止まるほどの静かさ。
こういうのは、嫌いだな、俺。
話したい事なら正直いっぱいある。
「デカ女も買い物に来たのか」
「その言い方やめてよ、変態」
「変態じゃねーし」
「私のアパートさ、水道が凍結しちゃって」
「そら、大変だ」
「こんな感じだから、買い占めが起きちゃって、コンビニにも何も売ってないし」
「スーパーが頼りってわけか」
「開店まで並ぼうかな。変態も暇なら一緒に並ぼうよ」
「しょうがねえな」
なんだろう、コイツの安心感。
女としては、ギリ見れるけど、100パー好きかと言われればそうじゃない。天ぷらで2番目に食べる食材、そういった女だな。
真琴と開店を待つ。
その間、狩屋とか茂木とか、愛生さんとか、オートマだとか、マニュアルだとか、バイト先だとか、そういう、他愛もない話をした。
それでも、寒くて、並ぶのをやめないか、そういった会話になった。
「変態さんの家は凍結してないの?」
「してないね」
「じゃあさ、凍結なおるまで家に入れてよ」
何言ってんだコイツ?
俺が一瞬の間を作ると、真琴が保険をかけるように、続けて喋り出す。
「な〜んてね」
「別にいいけど」
「じゃ、行っちゃおうかな」
寒さに堪え難かったし、真琴に話したい事が
たくさんあった。俺らの手は赤くなっていて、気がつけば顔や耳も赤い。
振り向けばスーパーの開店待ちの行列が出来ていて、先頭の俺たち2人はその権利を放棄し、さくさくと音を立てながら、自宅へ向かった。




