58.最大の難問
「まぁまぁだったね」
遥さんの映画の感想はその一言だった。
いや、それどころじゃないですよ。
「よ、良かったですよ。やっぱりハッピーエンドは良いですよね」
俺は適当に感想を返す。それどころじゃないではないか。
「お腹空いたし、何か食べて帰ろうよ」
「あっ、はい!」
「もしかして、ポップコーンの食べ過ぎでお腹空いてない?」
「お腹!空いてます!とてつもなく!」
「ふふ」
お腹は空いていなかった!それよりも頭の中もいっぱいだ!お腹いっぱいならぬ、頭いっぱい!
それから適当に見つけたイタリアンの店でランチメニューを選び、食事の到着を待つ。丸いテーブルで俺と遥さんは向かい合った。
なんとなく、目線を逸らす。
いつもなら、雀卓で向かい合っているのに。
「飾りが可愛いお店だね」
遥さんが店内を見渡してそう言う。木彫りの人形がたくさん置いてあって、雰囲気を醸し出していた。こんな、ザ・デートみたいな、状況はただでさえ緊張するというのに・・・
さっきの手のつながりは、なんだったんだ!?
それを問いただせない俺がいた。
遥さんも、あえてなにも言わないのか、全く話題に触れてこない。
「自動車学校はどうだった?」
いまは、その話じゃない。
「あの映画さぁ〜」
違うよ、遥さん。
「和洋中、何のメニューが好き?」
話したいのはそんな、事ですか?
「うわぁ!美味しそう!」
運ばれてきたメニューは確かに美味しそうだ!
俺は、初めての枝豆のスープを口にしながら、ついにそれを聞いてみた。
「遥さん。その、さっき映画館で・・・」
「ん?」
映画館で、手、繋ぎましたよね?
それが言えない。手をマジマジと見る。なんだか少し赤い。でも、遥さんの助け舟は、貰いたくない、男だろう、俺。
「手ぇ〜」
「て?」
遥さんも俺の手をまじまじと見る。
「繋ぎませんでした?」
「うん。繋いだよ。なんでだと思う?」
心理学、言語学、数学、物理学、化学・・・
そんなものよりも難しい。
大学生活史上、最大の難問が俺に降りかかる。




