51.鏡
「ごめん、そういうのじゃ、ないんだ」
俺は目の前のユキちゃんにそう告げる。
色んな感情が混ざっていた。
ユキちゃんが魔女なの?
キスしたらどうなるの?
ユキちゃんは俺のこと好きなの?
〝いいよ〟って、何が?どこまでいいの?
ユキちゃんは簡単に唇を許すの?
俺は、俺はユキちゃんを好きなの?
「ふーん。好きな人でもいるの?」
意外とあっさりと返事をするユキちゃん。
「いや、その、そういうんじゃなくて、うーんと、今は、今はそういうのじゃないんだ。別に、そういう、感じになりたいから、助けたわけじゃない」
「じゃあ、なんなの?」
分からない。
ユキちゃんが顔をそらし、反対側を向く。
鏡の反射で顔が見えてしまう。
涙が流れている。
どうすればいいんだ、俺。
正直めんどくせー。
ユキちゃんが魔女なのかどうかも分からない。
順番が違う。
まずは俺の恋路を悩ます、魔女問題を解決しなきゃならないだろう。
「ご、ごめん、今日は帰るわ」
そう言い残して、俺はそそくさと部屋を出て、愛車ズーマーを法定速度でぶっ飛ばす。
夏の夜風は温いが、原付のスピードは体温を奪う。
冷静になれよ、俺、冷静に・・・
等間隔の街灯、風、停止する度に聴こえる町の雑多な音。夜。ユキちゃんの顔。里山さん。免許。遥さん。夏美さん。デカ女真琴。狩屋の告白。愛生さん・・・
魔女。
救済の魔女。
破滅の魔女。
魔女は正体を現してはいけない。
俺は破滅の魔女を好きになってはいけない。
心の距離が近づくだけでも、円形隆起のような、不可解な現象が起きる。
冷静になればなるほど、色んなことが頭を渦巻く。
そして、
冷静に考えて、ひでー奴だな、俺。
理由はどうあれ、
女の子を泣かせてしまった。




