134.可能性
その言葉は、あっさりと出てきた。
晩ご飯、テレビを観ながら、狭いアパートの一室。
食卓を囲んでいた。
「私たち、結婚します」
母がそう、切り出し、ミツルさんは苦い顔をしながら、俺の事を見ながら言う。
「・・・いいかな?」
男らしくない聞き方だ。
「約束してください。絶対に、母を幸せにするって」
それだけで十分だ。
ミツルさんの事は、どうでもよくて、俺はただ、母の幸せが保障されるなら、それで良い。
母さんが口を開く。
「なに言ってんの。アンタが良い子に育っただけで、私は幸せ者だよ」
「あっそう」
難しいし、むず痒いな。母親って。
ここ最近の魔女にまつわるエトセトラが終わって、スッキリした事もあって、
俺は母親の再婚という事実をすんなりと受け止めていた。
それから俺は空気を読んでリビングで寝て
2泊の滞在を予定していたのだけれど、
それは取りやめて、適当な理由をつけて帰る事にした。
「たまに、帰ってきなさいよ」
「気が向いたら」
「結婚許してくれて、ありがとうね」
「何かあったら俺に言えよ」
「ナイスゥ〜な息子だね」
母さんも言うのかよ、それ。
そこで母の車から降りた。
帰りの電車に乗ろうとした時、
最近覚えた顔が通りかかった。
同じ中学のカニエさん。
今はアイドルの海老名明日香。
妹も、ああいう舞台に立つ事があるのだろうか?
まぁ、多分、可能性は低くて、
もちろん夢を応援したいのだけれど
どうなるかは、分からない。
それでも、応援してあげたい。
お兄ちゃん、だから。




