105.日常回
【chapter.08】 魔女(全25話)
コンビニの店内は独特な香りが充満していた。
出汁の香りで具合が悪そうになる。
「いつの間に!」
レジの目の前におでんのセットが置いてある。
「寒いですからねぇ〜」
ユキちゃんが当たり前のことを言う。
うん、もう、夏じゃないけど。
「気温が下がると売れ始めるからね」
熊のような猫背の店長が豆知識を語る。
どうやらコンビニの様々な製品は天気や気温によってその売上が変動するらしい。
あまり気にはしなかったが、単純な話で、確かに暑い寒いは購買意欲の要因のひとつだ。
ああ・・・そんな会話をしていると
なんだか日常回って言うか
そういう安心感がある。
もちろん、ユキちゃんとのあれこれは解決してないし、真剣に話し合ってはいないのだけど
アルバイトという状況が助けてくれている。
さらに今日は終業の時間がズレているから、大事な話をしなくて済む。
どこかで俺は、ユキちゃんが救済の魔女と言う事以上に、血の繋がりがあるという事実から逃げているのかもしれない。
ただ俺にどうしろって言われてもそれはそれで難しい。
あのクソ男の事も、思い出したくない事実だ。
あのクソ男の、しょうもない男性器から出た遺伝子が別たれて、俺とユキちゃんがいる。
その、どうにもならない事実。
いや、でもDNA鑑定をしたわけじゃない。
こういった逃げ道の余地も必要なはずだ。
「ところで借金返済は出来たのか?」
店長が話しかけてくる。
そういえばそんな会話をしたな。
「いや、まだです」
「えぇーっ?借金してるんですかぁ?」
ユキちゃんが目を丸くして言う。いや、君との関係を調べたくて探偵を雇って、その金だよ!とは言えない。
「コイツ、オンナ買ったんだってよ〜」と店長。
「不埒!最低!」
ビンタされる俺。
愛しき日常回だ。




