脱獄を知った王宮の動き
「なっ、なんですってぇ?和田洋平とノベルが脱獄したですって?」
アリア王女は部下の報告に激昂した。
二人が脱獄したのは昨晩の深夜0時であり、今は日が明けた7時。もっとも、いつ二人が脱獄したのか正確な時間を知るものは王宮にはいない。
報告に来た兵士は王女の激昂に耐えつつも、報告を続けた。
「はっ、はい。見張りの兵士が今朝様子を見に行った時には二人はおりませんでした。そして、便所の穴が破壊されて広がっておりましたので、おそらくは便所の穴から下水道を伝って逃げたものと考えられます・・・」
アリア王女は親指の爪を噛みながら思考した。
まずい。ノベルとかいう小娘はともかく、和田洋平が王都から出ていくのは非常にまずい。あの情報を持たれたまま自分の管理下におけないとなると、いつ他の勇者にあの情報が伝わるか知れない。
ああくそっ。即座に殺してしまうべきでした。
すぐに追って殺してしまうべきだ。そして、彼を追うのに他の勇者に知られてはならな。秘密裏に行わなければ・・・
「すぐに追っ手を向かわせなさい。まだ脱獄してさほど時間はかかっていないはずです。」
兵士は畏まって頷いた。
「はっ!直ちに捜索に向かいます。」
兵士が王女の部屋を後にしようとしたところで、部屋に入ってくる一人の男がいた。黒い甲冑に身を包む、銀髪の見眼麗しい青年だ。
「王女様、失礼いたします。」
その男は恭しく王女に礼をした。
「アルベルトですか。よく来てくれました。話は伝わっていますね?」
彼は王国が誇る黒騎士団の団長であるアルベルト。伯爵家というこの国にとって血筋の良い生まれにして、その長男。さらに、20歳という若さで団長の地位にまで上りつめた猛者でもあった。
勿論、この場にアルベルトを呼んだのはアリア王女だ。
「はっ。うかがっております。」
「よろしい。では、あなたは王宮の兵士と黒騎士団を率いて和田洋平とノベルを追いなさい。」
「承知しました。話を聞く限り、二人は下水道からドナ川に抜け、そのまま城壁を通過したのでしょう。城壁および城門には異常はなかったので、そう考えております。私たち黒騎士団はドナ川沿いの街道を下っって捜索を行います。」
「いいでしょう。気配察知系のスキルないし魔法を持つものはいますか?」
「問題ありません。我々は黒騎士団ですよ?逃亡者を追うのはお手の物です。」
そう言ってにやりと笑うアルベルト。現在平和なこの国で騎士団に大した仕事はない。あるとすれば、今回のように逃げた罪人を追って捕まえるくらいのものだ。
アルベルト達黒騎士団にとってそれは仕事というよりゲームに近かった。なんといっても合法的に人を狩猟できるのだから。
王女もまたアルベルトに絶対の信頼を置いているのか、安堵して笑みを浮かべている。
「分かりました。あなたに任せます。ただし、絶対に失敗は許しませんよ?何としても捕らえて殺しなさい。」
「ははっ!」
「それと、王宮の兵士たちは万が一のことを想定してドナ川ではなく王都内と王都周辺を探索しなさい。いいですね?」
「ははっ!」
兵士も深々と拝命した。
アルベルトは早速配下300名を率いて城を抜けてドナ川沿いの街道を東に進む。無論、気配察知のスキルを使いながら進んでおり、誰一人として見逃すはずはない。
馬上でアルベルトは下衆な笑みを浮かべていた。
「ふふふ。出来損ないとはいえ、勇者をこの手で殺せるとは俺も運がいい。お前らもそう思うだろう?」
横にいた兵士が答える。
「はっ!あいつらは自分たちが勇者だからといって尊大な態度で接してきますからね。正直うっぷんがたまっておりました。」
「そうだろうそうだろう。全く、人ひとり殺したことのない奴らが勇者とは笑わせる。私こそ、いや私たちこそが王国最強なのだ。それを王女様にもわからせてやらんとなぁ。」
また別の兵士がしゃべる。
「アルベルト様、女のほうはどうされるおつもりで?」
「ふむ」
アルベルトは少し考えた。
「確か、ノベルとかいう王立図書館の司書だった女とか。どんな奴か知っている奴はいるか?」
「私知っています。変わった性格ですがなかなかの上玉ですよ。彼女狙いで図書館通いする輩もいるとか。」
「なるほど。では、団の幹部で回して楽しむとするか。いつものようにな。」
「やったっ!」
「ひゃっほー」
そんな下衆な会話をしながら彼らはひた進む。騎士団とは名ばかりの、下衆な連中であった。
一方、王都では王宮の兵士が和田洋平とノベルの探索を開始していた。家々を訪ねては聞きまわるという地道な聞きまわりだ。
当然、冒険者ギルドにも探索の手は伸びている。
「冒険者の和田洋平と王立図書司書のノベルという女を探している。見覚えはないか?」
兵士は受付のエミールに問いかけた。
「いえ・・・来ておりませんが・・・何か洋平さんの身に会ったのでしょうか?」
エミールは兵士の様子がおかしいと感じ、洋平が何か事件に巻き込まれたのではないかと心配した。
「両名は王国から指名手配されている。見つけたら直ちに王宮の兵士に伝えるのだ。いいな?」
「はっ、はい・・・」
国の命令とあらば、そう答えざるを得ない。
だが、彼が一体何をしたというのか?エミールは少なくとも洋平が指名手配されるような問題を引き起こすような人間には思えなかった。だからこそ一層心配は強くなる一方だ。
「洋平さん・・・無事でいてくれるといいのだけど・・・」
エミールはぼそりとつぶやいた。




