【七】
細い路地を抜けると林が広がっており、その中に続いている獣道を更に奥へと進んで行く。
光は、口にこそ出しはしないが、辺りを見回しながら不安そうな表情を浮かべる。いつの間にか手を離した香香香は、そんな鬱蒼とした林の中を黙々と進み目的地を目指していた。
木々が徐々に少なくなっていくと、目の前に現れたの木で出来た小さな小屋で、どうしてこんな所に自分を案内したかったのかと光は不思議に思った。しかし、
「パッと見た感じは少しアレだけど、これでもあの村正さんの自宅兼作業場だから」
小屋を前にした香香香は何故か自分の胸を張りながら言った。
「作業場ですか?でも、色々高価だから組合で作るものかと思ってたんですけど」
小屋の周囲を見回しながら言うと、
「まあ、村正さんの作るものは高値で売れるからね?作業場くらい簡単に作れんのさ」
香香香は言いながらドアをノックして中からの返事を待ち、
「さっきの酒井忠次って人からの依頼も百万銭出すから作ってくれって言われてるみたいだからね」
「百万ですか!?」
光は自分が闇市場で購入した時の香香香の刀の値段を思い出し、溜め息を吐き出した。
数秒後に扉が開き、中から出て来たのは綺麗な顔立ちをした青年で、これがあの有名な刀打ちなのかと光はまじまじと顔を見つめてしまった。その視線に気が付いたのか、村正も光へと視線を飛ばし、二人の目が合う。
「何、客?香香香ちゃんが客引きしてくるなんて珍しいじゃん。まあ、でも残念ながら俺は今のところ打つ気は無いけどね?」
挨拶もしないでそう言ってのける村正は香香香へと視線を戻す。
「大丈夫です。彼は私のお客なんで。とりあえず、中に入っても良いですか?」
口調だけは師弟関係をしっかりしているように感じるが、態度やそれ以外の事はどうもそんな感じがしない。むしろ友達のような感じにも見える。
光は、香香香に中へと入るように促され、その小さな作業小屋へと足を踏み入れた。村正は微妙そうな顔をしていたが、ゆっくりと扉を閉めて、
「もしかして、昨日香香香ちゃんが言ってた新人プレイヤーさん?」
ズバリと言い当てた。昨日の今日の話である為に村正にとっては大して大袈裟な推理などはしていないのだが、香香香は慌ててしまい、
「か、彼は、闇市場を教えた私に感謝してくれたみたいで、少しでも私のお財布が潤うようにとわざわざ私の作った武器を検索して買ってくれたんです!」
当たり障りの無い事実を改めて説明し、光への嘘をついた話を後悔しているという事をバラされないように取り繕う。そんな様子を口角を上げて嬉しそうに見ていた村正は、彼女の隣に立つ新人を見ながら、
「光くん?」
突然声を掛けらた光は、驚きながらも、
「はい」
と、返事をし村正の方を見る。
「香香香ちゃんは、俺の唯一の弟子なんだけどさ?鍛冶の事で色々悩んだりする事が多い問題児だからさ。何かあった時は相談に乗ってあげてよ?」
言われ、鍛冶の事で悩んでいるのならば、どう考えても師匠である村正がアドバイスするなり、話を聞いてあげた方が良いだろうと思ったが、口には出さず、
「自分に出来る事があれば喜んで協力しますよ」
そう言った。
二人の間に香香香がすぐに割って入って来て、
「ちょっと!村正さん、何言ってるんですか!?」
「香香香ちゃんは、プライドが高いのか、努力している姿を人には見せないんだよ」
そんな恥ずかしい事を言われ、村正の開いた口を香香香が無理矢理両手で塞ごうと手を伸ばしたタイミングで再び小屋の扉にノックをする音が響いた。
「今日は、やけにお客が多いな」




