【六】
時間を遡る事数分。鍛冶組合の建物の入り口を見張るように見つめる二つの陰があった。一つは、先程香香香と言い争いをしていた酒井忠次という号の青年で、もう一人はどこにでもいそうな普通の青年であった。しかし、
「もう一度確認するがお前、本当に半蔵か?」
忠次が顔を真剣に見つめながら不思議そうに呟いた。その光景はヤンキーが一般生徒からお金を巻き上げているような光景に見えなくも無いが、
「ちゃんと半蔵だ。安心してくれて良い。忍びには変装の技能があるんだが、忠次にはまだ見せた事が無かったか?」
「なるほどな。まあ、その話はまた後日改めて聞くとして、やって貰いたい事の確認をするぞ?」
半蔵は黙って頷いた。
「あの名工である村正の弟子が今、この鍛冶組合の中にいる。香という漢字を三つ並べた香香香というプレイヤーなんだが、彼女の後を付けて村正の居場所を探って欲しい。二人が確実に会うとは断言出来ないが、唯一の弟子ある彼女が一番可能性は高いはずだ」
半蔵は再び首を縦に振った。
「何かあればすぐに連絡をしてくれ。頼んだぞ」
そう言い残して酒井忠次はその場を後にした。変わらず、その場で待機をし、入り口を見張り続けている半蔵の視線に光の手を引き、共に出て来る香香香の姿が映った。プレイヤー名を確認した半蔵はすぐに後を追い掛けようと建物の陰から通りへと姿を現すが、手を引かれている光の顔を見て一瞬、動きが止まってしまう。
「あれは、本庄で見つけた新人プレイヤーか」
本庄を出てそのまま進んで来れば、この町には嫌でもやって来る事になるので、天文学的な数字とまでは呼べないが奇妙な偶然ではあるかもしれないなどと考えて静かに尾行を開始した。
二人は何か会話をしているようだが、尾行をしている半蔵からは距離が遠すぎて聞こえない。離れたプレイヤーの声を聞き取るような技能もあるのだが、少し犯罪っぽい気がして半蔵はあまり好きでは無かった。それに今回の尾行は素直に後を付けるだけで済む簡単な仕事だ。
兎に角、二人がどこに向かっているのかは分からないが、村正の居場所のヒントが少しでも見つかればそれで御の字なのである。
二人がこちらに気が付く様子は無いが、半蔵は、度々足を止めては軒を連ねる商店の陳列された商品を品定めするような仕草を交えながら尾行を続ける。彼の姿は全くの別人であり、そもそも変装の技能を使っている段階で号などの表示も無くなっているので、気付かれる心配などほとんど無いのだが、それでも忍びとしての役割をしっかり全うしたいのか、これほど簡単な仕事にも隙は一切見られない。
目標である二人は、通りから道を一本入り、裏路地へと消えて行く。少々薄暗い雰囲気のあるその道は、近所に住む人間でもあまり使う気配が無いような雰囲気で、こんな道の先に一体何があるのかと不思議に思ってしまうほどだった。
町の外側へと伸びる道である為に、先にあるのは町を囲うように生えている雑木林だけ。すぐに追い掛けるのはリスクが高いと思ったのか、その道の入り口を見つめるようにして足を止めた半蔵は、すぐに通話画面を開き、言われた通り、忠次へと短い言葉で報告をした。
「少々怪し気な道に入って行きました」
と。
向こうからのは返事は、連絡が思っていたよりも早く来た事に驚いた言葉と、
「すぐに向かうから、詳しい場所を教えてくれ」
という言葉だった。
17.06.28 誤字修正
17.07.02 誤字修正




