1.3
「保安官!保安官!」
二人の男が、見知らぬ国の通りでその言葉を連呼しながら現れた。
二人は一歩ごとに転びそうになりながら、汗ににじむ絶望を浮かべていた。この我のような神聖な存在を案内するという、絶望を。
そこには古びた木造の建物が立っていた。両開きの扉はわずかに触れるだけで揺れ動き、誰かが通るたびに軋んだ音を立てる。正面には幾本もの柱に支えられた広いポーチがあり、使い古された板張りのテーブルがいくつか並んでいた。
バーか。実に古風なバーだな。
一歩近づくごとに、談笑しながら酒を飲む男女の姿がぼんやりと見えてきた。とはいえ、まだ距離があるせいで細部までは判然としない。
待てよ。我がこの世界に降り立った時、ここは石畳とチュニックの、いかにもヨーロッパ中世風の王国だったはずだ……それなのに、一体なぜ今、両開きの扉が揺れる西部劇のサルーンへと向かっているのだ!?神は、我のために一体どれほどめちゃくちゃで時代錯誤な世界観をこしらえたのだ!?
まあいい。どうやら誰かの元へ連れて行かれるようだ。あの青い箱よりは、少しはマシな役に立つ者であることを願おう。
「保安官!!」
二人の男は目的地に辿り着くと、膝に手をつき、息を切らしながら立ち止まった。
「こ、これを見てもらわねえと!緊急事態なんだ!」
ポーチには帽子をかぶった男が座り、向かいの女とトランプをしていた。男が我へと視線を向けた。
我と男の間にあるのは、小さな柵ひとつだけだった。いつでも乗り越えてやれる、そんなものなど恐れるはずもない。
「何の用だ?」
ほう、なかなか良い帽子をかぶっているな。可愛らしい星のマークがついている。
保安官……実に西部劇じみた言葉だ。だが、我の記憶が正しければ、それは確か――
……待てよ……
我をポリスの元へ連れてきたというのか!?
「おい!一体全体、なぜ我をポリスのところなんぞに連れてきた!?」
「黙れ、悪魔め!今日、貴様は裁きを受けるのだ!」
「あ、悪魔だと!?我がか!?貴様ら先ほどは、我のことを神と言っていたではないか!」
「神より悪魔である可能性の方が、遥かに高い」
いやいやいや、こんなはずはない!
今日処刑だと!?あり得ん!我がこの世界に来てから、まだ10分しか経っていないのだぞ!
何か切り抜ける方法があるはずだ。落ち着け、これはただの手違いに過ぎない……
保安官はトランプから目を離さぬまま、ただため息をついた。「この町ときたら、いつも妙なことを言い出す……で、なぜそう思う?」
我の右側にいた男が、我を指さした。
「こいつを見てくれ!その格好、どう見たって悪魔のもんだろうが!」
ただのパーカーと、ショートパンツなだけなのだが。まあ、こいつらにとっては見慣れない格好なのだろう。
我の左側にいた男が、震えながら言った。
「それにこいつ、訳の分からねえ言葉を山ほど喋ってたんだ!悪魔にしか言えねえような言葉をよ!ありゃ絶対、何かの呪文だったに違いねえ!」
プレイステーション、Vtuber、コンピューター……我は一体、何を召喚しようとしていたのだろうな。
保安官は、まったく疑っている様子がなかった。
「それだけか?服装と喋り方だけで、本気でこいつを悪魔だと言い張るつもりか?何でもかんでも神の御業に結びつけるのは、罪だぞ」
「だが、ほぼ間違いねえと思うんだ!こいつが放ってる雰囲気からしてよ!こいつがただの普通の奴なわけがねえ!」
「せめて、こいつ自身に釈明させてやれ。ほら、説明してみろ」
まったく、こやつら「雰囲気」ひとつで人を処刑しようとしているのか。愚か者どもめ。
幸い、保安官はかなり懐疑的なようだ。
だが、ここで我は、異世界の鉄則その一を破ることになる。
あまりにも絶対的な掟ゆえに、この世界から追放されるか、あるいはすべてが夢だったかのように、我が部屋で目を覚ますことになるかもしれない。
神よ、どうかお許しを。だが、我はこれを破らねばならないのだ。
「実はな……」
我は胸に手を当て、はっきりとした口調で。
「我は、異世界から来たのだ」
それだけだった。何とも情けない――この手段に頼ったことで、我のプライドは少々傷ついた。
いや……違う、そうではない。むしろこれは、我をより唯一無二の存在にするのだ!異世界転生したことを、自らの口で告げる勇気を持った主人公など、歴史上初めてに違いない!実に、我は素晴らしい――
「ああ、地獄からな!」
「ぐわあああ!!!違う!貴様ら一体どうなっているのだ!?断じて違う!我はこれと似た世界から来たのだ、だがもっと技術が発達し、近代化された世界からな!」
「嘘つきめ!そんなもの、ルシファーの策略のひとつに過ぎん!保安官、今すぐこいつを処刑してくれ!」
こ、この畜生どもが……人間をこれほど殴りたいと思ったことは、未だかつてない!
「下等生物どもが、貴様らが今なしたことは冒涜である!思い知るがいい――」
「そこまでだ」
保安官はたった一言そう告げただけだった。だが、その言葉に宿る威厳は、我にほぼ匹敵するほどのものだった。
「まったく、こんなことに構っている暇はないんだがな……」目の前の料理とトランプの束の方が、誰かの首を刎ねることよりも、明らかに彼の関心を引いているようだった。
「俺の助手のところへ行け。あいつに決めさせる」
「では、その者はどこにいるのだ?」
「牢屋の中だ。お前は逮捕された」
「はぁ!?」




